「鉄線よ、我君を愛す(7)-1」 H.23/11/24 |
総悟の中で、垂穂が絶頂を迎えた。 穿たれた最奥に、熱いものがびしゃりと叩きつけられる。 「うぁ・・」 雄が自分に種付けをしたという快感に、己の中心もびくびくと欲を放出したいと震え出す。 垂穂の手が、絞り出すように総悟のものをしごき、最後まで中に出しきろうと己も腰をゆっくりと揺らめかせた。 がたりという音を耳の端に捉えながらも熱を止められない。 「んふっ・・・ふうう・・」 小さく鼻から抜ける声を漏らしながら射精して薄く痙攣する。 はあ、はあ、はあ。 「く、う・・」 強く瞑っていた目をうっすらと開いたその瞬間だった。 きらりと音がした、ような気がする。 はっと瞳を見開いて、己の上にかぶさる男の背後の影に気付くと、そこには月明かりを背に受けて蝋のような顔色になった高杉が大きく刀を振り上げていた。 考えるより先に身体が動いた。 総悟の左足を抱え上げている垂穂の右腕をぐいと引いて、垂穂を倒れ込ませる。 萎えてはいるが、己の中に入ったままの男根がずるりと回転して、総悟が呻いた。 同時に高杉の刀が振り下ろされる。 空を斬る音。 高杉の刀は、的を失ってそれでも垂穂の背中から左腕を浅く掠った。 「う、ああああああああああああっ!」 浅いとは言え真剣。 指先に押し当てただけですぱりと深く切れるほどの刀。 着物の上からならまだしも、諸肌脱いだ状態で斬りつけられたのだから、悶絶の痛みには違いない。 だが。 総悟が垂穂の手を引いていなければ、一刀で命を奪われていただろう。 「んうっ」 悶え苦しむ垂穂の萎えた陰茎が、ずるりと引き抜かれた。 総悟の秘部からは白濁がねとりと溢れ出し、それを見た高杉がすうっと目を細め、後頭部をやや後ろへ倒してもう一度垂穂の血が付いた刃を振りかざした。 「ん、だ・・・め・・・」 下半身にひどい鈍痛を感じ、ともすれば意識を失いそうになるほどの疲れを無理に振り切って総悟が身体を起こした。 「駄目・・駄目だ・・・」 尻を板間についたまま腕を高杉の方へ差しのべて、怒りの君主を止めようとする。 「駄目・・で、さ」 ようやっと高杉の着物の裾を捉えた総悟の指先が震えながらもぎゅうとそこを握る。 「駄目だと?」 二の太刀を浴びせようと垂穂を追いかけた高杉が総悟を見た。 その顔はいつもの高杉だった。だが、常日頃から高杉の周りには狂気が纏わりついている。だから今はただその狂気が増幅して、炊事場全体を黒い雲の様に覆っているだけだった。 あまりの怒りの為か、耳の前あたりから顎にかけてうっすらと鳥肌が立っている高杉。 澱みのない白目をいっぱいに開いて、この男独特の見下ろし方で総悟を見た。 「何が駄目だ。この期に及んで何が駄目だ!」 どんと音がして、すぐ脇に置いてある酒樽が土間に倒れた。 蓋が無かった為、大量の中身がすべて零れて炊事場の固い土床を濡らす。 自分で倒した酒樽に左足を乗せて、高杉が視線を垂穂に戻す。 「殺してやる」 地の底を這う様な声が響いた。 「ひい、ひいい・・・」 痛みに呻きながらも、命の危険を感じた垂穂が芋虫のように這って逃げようとする。 大股で近付いた高杉が、垂穂の髷を持ってぐいと引っ張った。 「ぐああああ」 高杉が髷を己の方に引き寄せた為に、垂穂の背が弓なりにしなる。 先程の刀傷からどぷどぷと血が噴き出した。 「うう、あう・・・・あああああ」 苦しむ垂穂の顔を見ながら。 何も、言わなかった。 高杉は何も言わず、指が白くなるほど握り込んだ髷を己の唇まで引き上げ、ぞっとする程静かに光る刃肉を垂穂の首を焦点に合わせて振りかざした。 「たる・・・」 咄嗟に総悟が、高杉の派手な着物の裾を引いた。 転びこそしなかったが、バランスを崩して踏みとどまる高杉。 「いい・・痛い・・・ああ・・助けて・・・」 「バッキャーロィ、いくらも切れてねえ!血がたくさん出てるから痛ェように思っちまうんだ!骨まで切れてねえんだ、さっさと消えろィ!」 総悟が垂穂を叱りつける。 その間にも高杉が、裾を掴む総悟の手を乱暴に振り払おうとするが、総悟の強く掴む手を離そうとしないのを見て、大きく舌打ちした。 支えている方とは逆の足を上げて総悟の肩をどんと蹴る。 だが、離さない。 更に高杉の左足にこれでもかと抱きついた。 刀も無く、着衣もしていない総悟のそれが精いっぱいだ。 総悟はしっかりと高杉の足を抱きしめながら振り向く。 垂穂とて幾度も戦場をくぐり抜けて来た男だった。 刀傷など数え切れぬほど受けた。 その武士である垂穂が「痛い」と言葉にする程なのだから、決して浅い傷ではないだろう。 だが、ここでのたうちまわっていれば、高杉にとどめを刺されることは必至だった。 「城の外でいくらだって手当くれえ出来る!這いつくばってでも逃げなァ!」 心を鬼にして叱咤する。 乱暴されたとはいえ、どうして垂穂を恨めようか。 たった一人敵地に赴く己につき従って、耐えがたき境遇をそれこそ孤独に二年も耐えた。 すべて総悟の為に。 「ううう・・・沖田・・・様」 「どこへなりと行け!」 気を抜けば泣き声になりそうだった。 悲しみと後悔にまみれた垂穂のそれでも澄んだ目が、小さく震えている。 ぎゅうと唇を噛みしめて、未練を断ち切るように乱暴に顔を逸らすと背からおびただしい血を流しながら炊事場を出て行った。 その、まろびながらの背中を見送ってふと顔を上げると、いつの間にか追う気の萎えた様子の高杉が、じっとこちらを見下ろしていた。 |