「鉄線よ、我君を愛す(6)-6」





「う」
思わず声を上げそうになって右手で口を押さえた。

「俺の顔を見て、驚かれましたか、沖田様」
労働に慣れた、節くれ立った手で己の引き攣れた皮膚を撫でさする。

「貴方は、この一年、俺の姿を見た覚えがありますか」
「・・・」

「無いでしょう。無いでしょうとも。貴方は・・・・敵方のお殿様に媚を売るのに必死だったんですから」
「垂穂」
「皆が貴方のことをなんと言っているかご存知ですか?貴方は己が良い思いをしたいが為に必死になって殿に奉公して、自分だけ甘い汁を吸っているなどと、そんな風に言われているんですよ」
「そんな、ことは、ない・・・」
「あは・・・あはははは・・・・・そんなことはない?貴方は高杉の野郎の寵愛を受けようと涎を垂らして身体を擦りつけていたでしょう。だから俺のことなんて気にする暇が無かった。貴方が侮辱されているのを、俺がどれだけ悔しい思いで聞いていたか分かりますか?こんな顔にされて、それでも今まで耐えに耐え抜いたのは貴方の為だ。ひとえに敵方で貴方の立場を悪くしないように・・・ただそれだけを想って薪の上で眠り苦い胆を嘗めた」

垂穂の瞳はぎらぎらと光っている。
故郷にいた時は足軽大将として戦場に出て刀を振るい、人の命も何十、何百も奪った垂穂ではあったが、このように狂気の色を纏った瞳をする男ではなかった。
この二年という時間が、垂穂をここまで変えたのか。


「それなのに・・・・・、それなのに貴方は、蓋を開けて見ればまったく噂どおりの淫売だった。国を売る代わりに己の身体を売った、悲劇の物語の主役を演じているただの狐だ。それも、発情期の」

総悟の目の前に、垂穂がぐいと進み出た。
距離をとることも出来たが、簡単に踏み込ませたのは、垂穂に対する負い目の為。

何かに驚いたように見開かれる垂穂の瞳が、総悟の目の前にあった。
少し屈んだ状態で、総悟の両肩を強く掴んでいる。

「貴方は、殿を、お忘れになったのですか」

殿、とは十四郎のことだ。
忘れているわけではない。
だが。

「貴方は殿のものだった。だから、だから俺もこの想いを隠し通すつもりでした。だが、そうでないのなら・・・・・乱暴で下品な獣みたいな男に喜んで身体を差し出すのであれば・・・・俺も・・俺にだって同じ様にしてくれたって、いいじゃありませんか・・・」

俺は、貴方の為に、ここにいるんだ。

そうぽつりと呟いた垂穂。

総悟が、何か言葉を返す前に、垂穂の唇が総悟のそれにぶつかるように重なった。
垂穂の唇は、熱くねっとりと濡れていた。

「あんな男に奉仕するくらいなら・・・俺の、俺の摩羅を咥えてくださいよ、ねえ」
がばりと強く抱きこまれる。
一日中泥のように働いたのか、垂穂の身体からは、噎せ返るような汗の匂いがした。

その匂いが、総悟の身体を硬直させた。

家督を継いで、今から華々しい活躍をしようとしていた矢先に、己の為に全てを捨てて文句一つ言わずに着いて来た垂穂。
ここにさえ来なければ、惨めな思いをすることもなかった。
それなのに己が人生を捧げた相手は蝶のように大切にされ、自分だけが人間の扱いもされず地獄のような毎日を送っている。

そんな男に、どうして抵抗できようか。
ひくりと総悟の喉が鳴った。

膳を並べる板間にどさりと押し倒される。
ひんやりとした背中の感触。
はあはあと荒い息が聞こえた。

「沖田様、俺は・・貴方を・・」
齧り付くような口付けと共に、乱暴な手つきで着物を脱がされる。

「ああ・・・ああ、やはり、やはり貴方は抵抗しない。貴方は、誰でもいいんだ」
上半身をすっかり曝け出されて、汗ばんだ身体が密着した。

月明かりだけの薄暗闇の中、胸の突起に吸い付かれる。
「う・・・」
その体勢のまま、垂穂の手が袴を解き、中へ無遠慮に入り込んできた。
「ふふ・・ふ、いつでも為されるように下帯も着けておられないとは・・・く・・・くく・・・うふふ・・・」
「・・垂、穂っ・・・」
右手が尻にまわってぐいと柔らかい肉を掴む。
そのまま尻を持ち上げられて、左手で袴をずり下ろされた。

強く乳首を吸い上げられて痛みの為に白い喉を反らせて呻くと、そこを咥えたままの垂穂がうれしそうに笑った。
総悟の中心には触れず、ただ尻の穴に乱暴に指を侵入させようとぐいぐいと入り口を広げている。

「ううっ・・うん・・・やめ・・・」
なんの湿り気もないそこに、男の中指が一気に根元まで差し入れられた。

「ひう・・・」

ぐりぐりと指を回転させて無理に慣らせようと暴れまわる。
ただ痛いだけのその行為。だが、途中で指がぐいと曲げられて、その指は総悟の腹のあたりの敏感な器官にほど近い部分を掠めた。

「ふあっ・・・」

決定的なところには届かないが、そこに続く手前の内壁を乱暴に擦られ、地続きの箇所も微妙な刺激を感じた。
「あ・・・あ・・・あ・・・」

「もう、もういいでしょう・・・貴方はいくらでも男を受け入れて慣れっこなんでしょう」
ずるりと袴を抜き取られて足を持ち上げられた。
腹が苦しいほどに身体を折り曲げられて、薄闇の中とはいえ、すべてを曝け出した格好になる。

視界の悪さに、それでもよくよく見ようとしているのか、垂穂の目がすうっと細められた。
「貴方は、とてつもなくこの格好が似合う」

ちょうど総悟が押し倒されているのは、炊事場の土間から配膳の板間に上がったところだった。
土間の端、手の届くところに、酒の入ったかめが置かれており、そのかめには木蓋がかぶせられてさらにその上に杓が伏せてあった。
垂穂はその杓を手に取り、木蓋を外して放るとどこまでも透明なその液体をたっぷりと口に含んだ。
そうしてそのまま総悟の開かれた尻に向けて、ぶうと酒を吹きつける。
「アッ・・・」
指で開かれた粘膜に酒が染み込み、あふれた液体が、尻を伝って背中に流れ落ちる。
その気持ち悪さに総悟が身じろぎした途端、垂穂のいきり立った怒張が総悟の身体をまっぷたつに割るように進入してきた。

「アアアアアアッ・・・」

己の半分ほどを総悟の身体に押し入れて、ふうと一息つく。

「あの時です。二年前、この城に入る前夜、貴方と最後に同じ宿に泊まったあの日。あの日から俺は、ずっとこうしたかった」

「いた、痛い・・やめろ・・やめろ、垂・・・」
ずん、と垂穂のすべてが身体の中に押し込まれる。
「んんんんあっ!」
ひゅうひゅうと喉から息を吐き出して痛みに耐える。
総悟の目尻からはうっすらと、一筋の涙が流れ落ちていた。

「ああ・・・・ああ・・・・とうとう俺が、貴方の中に全部入った・・・・。この時をどれだけ待ったことか」
総悟の尻と、垂穂の下腹部がびったりと密着している。
その密着をぐりぐりと擦り合わせるように円を描いて垂穂が腰を動かした。
「うぁああ・・・」
身体の中にいる垂穂自身も、同じ様に右回りの軌道を描いて、総悟の入り口をみしりと広げた。

ゆっくりと、垂穂が前後に動き始める。

ゆっくりと。
総悟の表情をじっと見ながら。


「ふ、ふ、・・・っふう・・・」
身体の中心を穿たれる痛みに、歯を食いしばった総悟の口から、呻きが漏れ続けた。
その、苦しみの表情が、垂穂の興奮を追い上げる。

「ああ・・・ああ・・・気持ちいい・・・・。ああ・・・・あのっ時・・・、一緒に逃げようと、言った、のを・・・覚えて、います・・・か」
「ンッ・・・・んんっ・・んふ・・・」
「っ・・・はぁ・・・う・・・今・・・今から・・・一緒に、、ウッ・・・一緒に逃げましょう・・・」
「んくっ・・・うは、あ・・・抜い・・・」

垂穂の腰使いがだんだん速くなる。
「ね、ねえ・・・ねえ?一緒にっ、逃げましょうよ・・・。俺が、貴方をこうやって、毎日かわいがって差し上げます」
「やめ・・・やめろ・・ィ・・抜いて・・くれ・・やだっ・・・は、うっ」

「大丈夫、大丈夫です。こうすれば、貴方も、気持ち良くなるはずなんですから」
垂穂の手が総悟自身を初めて握り込んだ。
そうしてごしごしと乱暴に擦り始める。

「い、やっ・・・嫌だ!やめて・・やめてくれ」

「沖田様・・・沖田様・・・!」
「あ、はあっ・・はん・・・・ああっ・・・!」

ぼたりと、腹の上に何かが落ちてきた。
うっすらと目を開けて見上げると、それは半開きになった垂穂の唇から零れ落ちている、ねっとりとした涎だった。

「ひ、嫌・・・嫌・・・・いや!!」

「沖田様!!!」


「はあ・・・はあああっ・・・ああ・・」


「うう、沖田様・・・沖田・・・さまっ」

ぱん、ぱんと破裂音のように何度も何度も腰が打ち付けられる音が響く。


垂穂が己の絶頂を追い、更に腰の動きを速めた。

総悟の快感を無視して、己だけが身勝手に欲を放出しようとした、その時。



折り重なる二人の耳に、がたりと炊事場の入り口で何かが倒れる音がした。






「鉄線よ、我君を愛す(6)」
(了)





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