「鉄線よ、我君を愛す(5)-1」 H.23/10/18



「だ、大丈夫ッスか」
布団の上でうつぶせになってぐずる総悟の側で、身体を清める為の水桶を持ってオロオロとするまた子。

「大丈夫なわけねーだろーがィ、アンタんとこの大将はなんだってまたバカみてえにしつこいんだ」
「戦は粘りだといつもおっしゃっておられるッス」
「戦ってねえから!いてえよ〜〜〜〜。ずきずきずきずきする・・・」
「い、今からよく拭いて軟膏塗るッスから!越中の薬師のものだから、良く効くッスよ!」

必死に総悟の尻を拭うまた子。
うつぶせのまま首だけを後ろへやってまた子の表情を見ると、男のケツ穴を真剣な顔して眺めながら丁寧に処理している。

「アンタ、良くやるねィ」
「?なんか言ったッスか?」

「んー・・・こんなおつとめも嫌がらずにやって、しかもアンタにしたら俺ァ恋敵だろィ?」
「んなっ・・・・なななななな・・・・」
真っ赤になったまた子がぶるぶると震えながら総悟の顔を見返した。

「女ァ捨てたなんて言ってっけど、高杉に惚れてんなァバレバレだぜ」
「なっ・・。た、高杉様と言うッス!!」
「たかすぎさまー。好いてんだろイ?」
「あたりまえだ!!あんな素晴らしくて見目麗しい殿方に心奪われない女子はいないッス!」
「やっぱし。あの人結構ドン臭えと思うけど」
「高杉様の悪口は許さないッスよ!」
「褒めてんだけどねイ。どっちにしろアンタはすげえよ」

また子は気恥ずかしさの為か俯いて手を止めていたが、やがて顔を上げて再び総悟の顔を見た。
「私は女を捨てた。高杉様は他の誰にも興味を示されないッス。嫁を取ったのも跡継ぎがほしいだけ、地盤を固める為に身内がほしいだけ。私などは身分も違うし高杉様のご寵愛を受けるなどおこがましい考えッス。どうせ女子として高杉様をお慰めできないならば、男としてあのお方のお側にいたいッス。だから、戦でも私以上に役に立つ武将はいないし、高杉さまのお望みをすべて適えるのが私の喜びッス」

この女子は、高杉に対して己そのものを捧げる覚悟なのだなと感じた。
だが。
「アンタはえらいよ。・・・だけど、だけど、もしもなんだかわけのわからねえ力に引っ攫われて、それが叶わなくなっちまったらどうすんでィ」
じっと総悟を見るまた子。
「アンタの幸せが、殿様のお側に仕えることだってんなら・・・それができなくなったら、アンタァどうするって言うんでィ」

八つ当たりなのは解っていた。
愛しい故郷の殿と引き離され、こんなところまで連れてこられた。
意に沿わない相手と無理に身体を合わせさせられて、それなのに憎みきれない。
そのジレンマが、総悟を苛々とさせていたのだ。

「・・・沖田様の言いたいことはわかるッス。でも・・・でも、ここへ来たからには、殿をお支えすることを第一に考えてほしいッス。殿は・・・高杉様はお寂しい方なのだ。その高杉様が本当に手に入れたいと願われたのは沖田様だけッス。だから・・・だから」

また子の綺麗な眉が寄った。

健気な女子の言葉を聞いても素直に頷くことができなかったのは、総悟自信が高杉に情が生まれ始めているからなのかもしれなかった。






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