「鉄線よ、我君を愛す(4)-5」 |
「そう、硬くなるな」 「ん、うっ・・・・」 身体の中、奥深くまで侵入している高杉の熱い芯棒。 もう随分長いこと中でじわじわと総悟を攻め立てていた。 慣れるには慣れたが、最中に十四郎の顔が浮かばない日は無かった。 「んふっ・・ふ・・」 鼻から抜ける声。 この三月で高杉は総悟の身体を隅から隅まで知り尽くした。 総悟を四つん這いにさせて後ろから犯しながら目を細めてある一点をぐるぐると突くと、聞くだけで達してしまいそうな悩ましい声を上げて遠吠えする犬のように身体を伸ばして感じている。 何かを塗りつけるかのように総悟の内壁を硬い肉が抉りながら擦りつけられる。 打ち込まれた楔はどくどくと血流の流れによって収縮と拡大を高速で繰り返し、腰を使わなくても総悟を狂わせた。 「ああっ、あああん、、、んあ!やっ・・・やあっ」 突かれる度に背中が反り返る。 そこにじわりと生まれて流れる汗をべろりと舐めて、その塩味にニヤリと口を歪める。 「ふうっぅあ・・や、いやっ・・・ああっ・・・やだ、や、や、や」 がくがくと膝をついた足が揺れる。じくじくと腹の奥が痺れて、快感に気が遠くなりそうだった。 尻の穴がぴちぴちに開ききってこれ以上無理だというところから更にぐいと押し込まれると、また仔うさぎのように痙攣する。 その痙攣と共に吐き出された精を手のひらに受け止めながら、高杉は暖かい孔の中で名残惜しげに腰を揺らせて己の種を最奥へと撒き散らした。 「ん・・・ふ、ぬい、て」 褥にうつ伏せになって顔だけ横を向いている。 はあはあと息をしている肩に、ぺっとりと長い栗色が張り付いてから寝具に流れ込んでいる。 その髪を愛しげに梳きながら、人差し指に絡ませてはいたずらに引いている高杉。 その高杉の雄は、萎えながらもいまだ総悟の中に入ったままだった。 「まだだ」 総悟に覆い被さるような体勢で、駄々をこねるようにいつまでも総悟の中から出て行こうとしなかった。 うっかり身じろぎでもすれば、高杉に刺激を与えてしまってまた再戦となってしまうので、総悟もうかつに身動きが取れない。 「ホント・・・もう、尻が・・割れそうだから・・・」 「馬鹿者、とっくに割れている」 「縦にだろィ、四方八方に飛び散りそうですぜィ」 「言葉遣いに気をつけろ」 同時にずるりと暖かいものが出て行った。 ぐいぐいと尻になにかが押し付けられる。 「っ、な、んですかい」 使い倒してひりひりと痛む尻。これからまだ何をしようというのか。 「てめえ拭いてやってるんだろうが」 「んんぅん、ちょっ・・・と、押しこまねえでくだせえよ」 「いや奥までふかねえと」 「もう!いいでさ!さわんねえでくだせえ!」 うつ伏せに寝ている総悟の両足をぱかりと広げてその間に入って一生懸命後始末をしようとする高杉。 最中は山賊かなにかのように荒々しい行為。しかし事が終わってからのどこか子供じみたこの男の行動が理解できなかった。 ぐるりと体勢を変えて天井を向く。 やがてごそごそと高杉が隣にもぐりこんで来た。 この男、最近は総悟を抱き寄せてぴったりと密着するようになった。 「晋助、さまはァ」 「様が不自然だぞ」 「しんすけ様はァ」 「・・・・・」 「結構暑苦しいお人だったんですね」 「、なんだと?」 「気を吐き出したら背中向けちまって口もきかねえようなお人かと思ってやしたけど」 「北上山はそうだったのか?」 がんと総悟が閨の中で高杉の足を蹴って背を向ける。 「・・・いてえ。てめえ調子に乗るなよ」 「・・・」 「おい」 「ねむいでさ」 ふうとため息が聞こえる。 「お前だけは別だ、なにしろ俺のモンだからな」 「はァ?俺のモンもなにも、あんたは何でも持ってるじゃねえですかィ」 ぽつりと呟いた高杉の台詞に、思わず問い返してしまった。 高杉は背を向けた総悟の腹に手を回して臍の周りをくすぐるように周回する。 「何でも持っているが、俺が欲しいと思ったモンは少ねえ」 「アンタ、俺のこと欲しいと思ったんですかィ?」 「晋助様だ」 「えー」 「言え」 「晋助様は俺のこと欲しいと思ったんですかィ?いつ?どこで?」 高杉の腕の中で総悟がもぞりと振り向いた。 触れ合っている部分が暖かい。 愛情が無くても、肉の暖かさというのは感じるものなのだなと、ふと思う。 「・・・・昨年鎌倉で馬揃えがあったろう」 「ああ、ありやしたね」 「あの時な、お前んとこの大将が、いい青馬を連れてきてそれを見ていたんだ」 「はぁ」 「そうしたらお前が、その馬に藁を与えて・・・・いや、与えるふりして二、三度手を引いたりして底意地の悪いことをしていたんだ」 「そんなひでえことしてやしたかね」 「していた。それで印象に残ったんだ」 「あれァいじめていい馬なんでさ。十四郎様の馬で、退峰ってんでさ」 「さがるみね?わけのわからねえ名前だな」 「まあいじめてくだせえって顔しててね、ただ馬としてはいい仕事するんでさ」 「だろうな、見りゃあわかる」 「それで。そん時の俺を見て、惚れちまったってえことですかい?」 「・・・・」 むくりと起き上がって高杉が煙草盆を脇へ寄せる。 銀の蒔絵の煙管を取り出してぐいぐいと乱暴に煙草を詰め込んだ。 「あいつは馬鹿だ」 「?」 「自慢気にお前を人目につく場所へ連れて行くなど愚か者のすることだ。俺なら城の奥深くに隠しておく」 途端に総悟が、腹ばいで煙管を咥える高杉の脛を蹴った。 一見神経質そうな濃い色の細い眉が寄る。 「いてえな。てめえ・・・さっきと同じところじゃあねえか」 「アンタだって俺を戦場に連れ出しただろい」 「戦場でのお前は違う、研ぎ澄まされた刀だ。愛でるモンじゃねえ。それに、あれはお前が言い出したんだろうが」 「同じでさ。十四郎様の事アンタなんかが悪・・・」 言い終わらないうちに高杉の藍紫の瞳がギラリと光って総悟の頬を横手で張った。 「てめえ舐めた口きくんじゃあねえぞ。次に未練がましい言葉吐きやがったらぶっ殺してやる」 「ふざけんな・・・・・」 「あんだと?」 「俺ァアンタに無理にここへ連れてこられたんでさ・・・。なんでアンタなんかにいい顔しなくちゃならねえんだ!」 「俺にいい顔?んなもんする必要はねえ。土方は・・・お前は力で負けたんだ。負けたなら大人しく故郷のことは忘れろと、そう言っているんだ」 「忘れられるわけねえ!あんな風に出てきた北上山城を忘れられるわけねえんだ!それでも俺ァあの城を・・・・・あのお人を断ち切って来た。なのに、なのになんでアンタがかざぐるまなんか植えるんですかィ!?」 あまり感情を見せない総悟の珍しく激した感情。 ひゅうと息を吸う白い喉を、高杉は目を細めて見た。 「俺ァアンタがわからねえ。なんで・・・なんでこんな乱暴するくせに、餓鬼みてえに純粋な目で俺を見たり優しくしたりするのかわかんねえ」 「優しく?」 「してる・・じゃねえか。俺を戦に連れ出してくれたり、着物とか・・・陣羽織とか全部・・それもやっぱりかざぐるまの花まであつらえて・・・。そんな事したって、俺がアンタに惚れるなんてことはありえねえのに」 「訳がわからねえな。お前は俺が力で手に入れたモンだ、乱暴に扱おうがどうしようが俺の勝手だ。お前が俺に惚れるなんてありえねえことくらい重々解っている」 「じゃあなんで」 「優しくなどした覚えはないが、俺がやりたいようにやっているだけだ。それでお前が惚れてくれるなんてこれっぽっちも思っちゃいねえ」 「・・・惚れて、欲しくねえんですかィ」 きょと、とした表情の総悟。 「惚れねえんだろう?」 「はあ」 「そんなこたァ解っている。力で手に入れたんだ、いつか力で奪われるだろう。それ以前に、心などは手に入らないものだと俺は知っている。だから容れ物だけ手に入れた」 話せば話すほど、この男が解らなかった。 「・・・・アンタ、どうして草太を拾ったんですかィ」 おもむろに何だと言いたげに総悟を見る鋭い瞳。 「どうしても何も、来るなら来いと言っただけだ」 「草太の目の前で、母親が死んだからですかィ」 高杉は、何も言わないでじっと総悟を見た。 「アンタ・・・晋助様の、母上はどこにいるんですか」 「死んだ」 煙管を煙草盆にかつんと置く。 総悟の隣に温もりが再びもぐりこんできた。 「俺が、殺した。兄を溺愛していたからな。兄が俺の謀反を疑って兵を差し向けてな、それを指示したのが母親だったのよ。一度は許した。だが再び俺に挙兵したから殺した。兄も、母も」 すうと息を吸う音。 「愛したものは手に入らぬと、俺は知っている」 ふと、総悟の頭の中に、もしかしたらという考えが浮かんだ。 それならば、己の幼い頃の記憶の少年が高杉では無いということになるが。 「その片目は、ひょっとしてその時にやっちまったんですかィ?」 ぴくりと動く高杉。 「何を言っているんだ、これは赤子の時にだな」 ごそりと動いて高杉が先程までとはまた別の真剣な目をして抗議してきたので、総悟は再び背を向けてそれを聞き流した。 そうして、ぼんやりとした高杉の心と身体を背後に感じたまま眠りについた。 (了) |