マクスウェル様との手合わせ[2/2]



宿を取って、俺はすぐにジュード君を部屋に押し込んだ。
きょとんとした顔も可愛いなぁ。


「イウ?二人の所に戻らないと…」

「どうして?俺はね、二人とも剣の指南とかしてるんだから行っても意味ないと思うよ。
それにイル・ファンでいろいろあって疲れてるみたいだし、ゆっくり休んだ方がいい」


ジュード君の頭を撫でながら言えば、図星を刺されたらしくジュード君は複雑そうな顔をした。
俺はクスリと笑い、いわゆるお姫さま抱っこでジュード君をベッドに降ろす。


「イウ!!」

「船の中でロクに寝てなかったでしょ、ジュード君。俺にはお見通しなんだからね?…あの二人にはちゃんと言っておくし、心配ないよ」

「で、でも……」

「いいから、寝る!」


ジュード君をベッドに押し付け、布団を被せた。
まだ寝ることを拒んでいたけど、俺が無言でじっと見つめたら諦めてくれたようで目を閉じる。
すると、数分後すぐに寝息が聞こえた。

大人びた行動をしていても、やっぱりまだ子どもなんだなぁ。
俺はジュード君を起こさないようにそっと部屋を出ると、急いで二人の元に戻った。
海停の端で基本的な指導を受けているミラさんはとても目立っているおかげで分かりやすい。
走って近づけば、丁度いいとばかりにアルフレドはニヤリと笑う。
気持ち悪い。


「ミラ、基礎はできてるからイウと実戦してみればどうだ?」


…なんてウザいことを言い出すのだろう、このクソ傭兵は。
ミラさんもそれなりに乗り気だから困る。


「よろしく頼むぞ、イウ」

「ねぇ、ミラさん。俺武器なんて持ってないよ?」

「いつも俺を殺しにきてる癖によく言う…」


俺は無言で、あくまで和やかに果物ナイフを投げつけた。
また避けられたけど。


「ふむ。いい動きだな、イウ」

「…火つけちゃったかな?」

「諦めろっての」

「黙れ屑。…ま、いっか。ミラさん、かかっておいで」


言えばすぐ、頷いたミラさんが俺に剣を振った。
もちろん、鞘はついてる。
…って、着いてなくちゃ危なすぎるよね。

俺は、後ろにステップを踏んで剣を避ける。
そして商売道具を取り出した。


「?…それは…」


不思議そうに俺を見るミラさん。
アルフレドは慣れているから特に反応していない。


「…さ、いくよ。右手におたまを!左手にフライパンを!…あー、以下略。秘技、死者の目覚め!」


頭ほどまで持ち上げたフライパンをおたまでただただ打ち鳴らす。
ガンガンと海停に響く音。
…うん、やっている本人すら頭が痛い!
グラグラする頭に鞭打って足元を見ると、丁度いい具合に小石が転がっている。


「キックラック」


頭が多少混乱したためか動きが鈍くなったミラさんの手を狙って小石を蹴る。
…女性に対して俺って最低だなぁ。
でも、勝負に乗ったのは向こうだし別にいいよね。

小石のせいで剣を手放してしまったミラさんと距離を一気に詰める。



「あーうー…えい!」


少し悩んで、軽くおたまでミラさんの頭を叩く。
ポカン、とした顔のミラさんとアルフレド。


「あはは…レディーに酷いことはできないかなぁ」

「それは困る。私は女である前にマクスウェルだからな」

「あー…そんなことも言ってたね。すみません、ミラ様?」

「分かってくれればいい。…それより、イウは強いのだな」


ありがとう、とだけ返しておたまとフライパンを仕舞う。
と、アルフレドになぜか引っ張られてしまった。
ボソリと耳元でアルフレドは俺に問う。


「…おたく、本当にミラがマクスウェルだと信じてるのか?」

「まさか。ミラさんは人間だよ、きっと」

「ふーん…」


自分から聞いてきておいて曖昧な返事だなぁ。
…って、俺普通にアルフレドと会話しちゃった!?


「うげー、死にたい」

「おい、なんか失礼じゃね?主に俺に対して」

「クソ傭兵に対してなら全っっ然失礼じゃないよ?」

「とことん失礼だな、おい!」


ウザいと思いつつ、アルフレドを払う。
瞬時に距離を開けてやった。
そして、ふと宿の方を見て自分の無能さに舌打ちする。


「イウ、さっき凄い音がしたんだけど…」


休ませようと思っていたジュード君がいた。
…さっき、死者の目覚めを遠慮なく使っちゃったからなぁ。
よし、とりあえず言うことはあれだね。


「ジュード君、ごめん!いろいろごめんね!!」

「え?よく分からないんだけど…イウ、何かしたの?」





to be continued,
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