眠れない日の処方箋
「椿も梓も大きくなったし、そろそろ別々の部屋をあげようか。」
小さい頃は、初めての一人部屋でとてもワクワクした。静かに本も読める自分ひとりの空間。その時の僕にはとてもキラキラした素晴らしい空間に見えた。
でも…
「眠れない…」
こんなにも自分が椿に依存しているなんて思いもしなかった。自分は椿がいなければ眠ることすらできないのだ。
時計をみると既に日付は変わっており、しばらく暗い部屋を照らした後に光は消え、先程よりも部屋を暗くした。
「椿…」
ぽつりと呟いても返事はない。当たり前だが、それが酷く寂しく思い胸がいたんだ。何度も何度もゴロゴロと寝返りを打っても寝心地のいい体勢は見つからず、ただただ布団の擦れる音を放つだけであった。
こんな夜は少しブルーな考え事をしてしまう。もし、僕と椿が離れ離れになってしまったら……きっと椿には優しい彼女ができる。そうしたら、毎日こんな寂しい夜を過ごすんだ。椿がいないこんな夜を。
ぞくり…
「ひぅっ!…」
体がブルブルと震え、急に怖くなる。椿がいなくなると…そう考えただけで周りの空気が一気に下がったようだ。涙が出そうになる。胸が痛い。辛い。布団を頭まで被るが、震えは収まらない。痛みも、寒さも、辛さも収まらない。
タスケテ…誰カ……
ヴーッ!ヴーッ!
音の無かった空間を歪ませるようなバイブ音。暗く寂しさを漂わせていた空間を切り裂くような光。
スマホを見ると椿からの着信。俺は慌ててロックを解除した。
「も…もしもし?」
『あぁ、梓。ごめん、起こしちゃった?』
「う…ううん。」
『やっぱり?なんか、梓が悲しんでるような気がしたんだよねー』
「僕が?」
『うん。なんか動揺してるっていうか…
俺さ、昔からなんか梓の不安を感じ取っちゃうみたいでさ』
そう言えばそうだった。初めての一人部屋。昼間は喜んでいたのに夜になると急に寂しくなった。すると椿はいつも「寒いから梓と寝るー!」と言って僕の部屋に転がり込んできた。いつも僕は、どっちが弟だかわからないね、と笑いながら一緒に寝ていた。
「やっぱり、椿は僕の兄さんなんだね」
『ほぇ?どうしたんだよ、急に』
「いや、なんでも」
小さい頃を思い出す。いつも一緒に寝ていたとき。背伸びしてお兄ちゃんを気取っていたけど…寂しくなんかないって行ったけど…
ほんとは、椿がいてくれたから眠れていたことを。
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