「なぁに フェリド。いきなり呼び出して」

「やぁやぁごんべ、元気そうだね。心なしか何時もより綺麗だ」

「ふふ、さっきまでグレンと一緒にいたもの。惚れた男に会う嗜み…なのに、」

貴方に呼び出されたから別れてきちゃった。もっと一緒にいれた筈なのに と顔をフェリドを睨む。
ただ彼は怯む様子はなく、クスリと笑い口を開いた。

「戦争」

「戦争?」

「人間と吸血鬼の全面戦争。もうすぐ始まるよ」

「ふぅん。じゃあグレンにもう会えないってこと?」

目の前で楽しそうに笑う吸血鬼に問う。

「んー。それは君次第なんじゃないかな、別に君の行動を僕が止める責任もないし義理もないしね」

なんというどっち付かずな意見。
まあこの人は昔からこんな風に陽気で他人に無関心だった。
あ、人じゃなくて吸血鬼か、なんて思ってたら彼は楽しそうに言った。

「場所は名古屋、君にも召集命令は出てる。多分君の愛しのグレン君もいるかもね」

「行く!絶対行く!」

そう言うと思ったよ、とけらけらと肩を振るわせる彼に私は1つ疑問をぶつけた。

「もし私がグレンの傍にいたいって言ったらどうする?例えば…私が”あっち”に行く、とか」

「ふむふむ。つまり、それはごんべが敵になるってことだ」

「そう。かつての同胞が敵となって現れたら貴方はどうするの?」

これは単純に疑問だった。
この男は物事に対して妙に達観している。
先程も私がどう行動しようと自分には関係なくそれを止める義理はないといった。
そんな目の前の男…否、吸血鬼は口元に手を当てて悩むそぶりを見せていた。

「そうだね。君が敵になろうとならまいとどうでも良いんだけど…目の前に現れたその時は、僕は容赦なく君を殺すために剣を振るうだろうね」

ああ、なんだ。この吸血鬼は…

「ふふ、可笑しな人」



−−−−−−−−



日は変わってここは名古屋。
栄えていた街並みは衰退した。道路には亀裂が入りかつての活気は感じられない。
ごんべは、そんな場所を一人、ヒールの音を響かせて歩いていた。

「グーレーン!どこにいるの〜?」

愛しい想い人を探しながら即興の歌を歌う。
観客はゼロ。あ、でもたまに帝鬼軍の人たちが飛び出してくるからゼロじゃないか。
私に向かって刀を向けてくるけど私は振るわない。
だってあの人たち弱いもの。
それにグレンが悲しむから…、なんてこんな事本人に言ったら吸血鬼らしくないなって笑われそう。
なんて幸せなんだろうか。

「ふふ、グレンに会いたいなぁ」

「呼んだか吸血鬼」

「む、この声はグレンだな〜。私に会いたくてここまで迎えに来てくれたの?優しいねグレン。」

今すぐ後ろを振り向いてグレンの顔を見たいのに、彼の手で目隠しをされてるためそれは叶わない。

「ねえちょっと。前見えない」

「吸血鬼なんだから前見えなくてもわかんだろ」

「あは、さすがに吸血鬼でも無理だよ〜」

手、退けるからね。そう一言いって手を退ければ目に入るのは眩しいほどの光。
一瞬目が眩むが徐々に光にもなれてきて周りを見渡す。

「……む?」

「なぁごんべ。前会った時に話した事、覚えてるよな」

忘れたなんて言わせねぇぞ、なんて笑いながら言うグレンの後ろには人影が見える。
グレンと似ている制服、帝鬼軍だ。

「何、グレン。私を騙したの?」

「いいや、騙してないね。」

「はは、じゃあグレンの後ろの人達は?私を殺しにきたの?」

「場合によっちゃな」

「なにそれ。やっぱグレン面白い」

「なぁごんべ」

「ん?」

「俺はお前を帝鬼軍に招待する。俺と来い」

グレンの目、本気だ。
まるでプロポーズされたみたいに頬が赤くなるのを感じる。
口の端が上がってにやついてしまうのを隠すように手で覆う。
グレンは何も言葉を発してないけど、ちゃんと私の目を見てくれている、それが嬉しい。

「グレンの傍に居れるなら、喜んで」


(私、転職しました)


「お前、こんな簡単に寝返ったりしていいのかよ」
「確かに。辞職しますってお手紙送ろうかな」
「いやそういう事じゃねえよ、あほ」
「まあフェリドにはそれっぽい事言ったしたぶん大丈夫。そんなことより喉が渇いた」
「首に噛みつこうとすんな」
「ほかの人の血飲もうとすると嫌がるのグレンでしょ!お願い、ね?」
「…わーったよ。後で飲ませてやるから」
「ふふ、ありがとうグレン。本当に優しい」