コツコツと足音が聞こえてこれば背後に気配を感じる。
ごんべは小さく笑い、そのままの笑みでくるりと振り向いた。

「久し振りだね、グレン!」

「馬鹿言え、3日前に会っただろ」

ガシガシと乱暴に自らの前髪を掻けば隣にいるごんべから声が上がる。
グレンがそんなごんべを横目で見ると彼女は残念そうに眉を下げていた。

「髪型セットして格好良かったのに。勿体無いなぁ 」

「堅苦しいのは嫌いなんだよ 」

「吸血鬼に成れば堅苦しい事なんてないよ 」

得意気に笑うごんべの口から伸びる牙は、彼女が吸血鬼である事を更に印象付ける。
グレンはごんべをじっと見詰めポツリと呟いた。

「お前、本当に吸血鬼なんだな」

予想してなかったグレンの言葉にごんべはぱちりと瞬きした。

「む、信じてなかった?」

「半分な」

「酷いなぁ 」

なんてけらけらと笑っていたごんべだが真剣な顔でグレンの目を見詰め言葉を続けた。

「で、吸血鬼に成る気はないの?」

グレンは表情を変えずごんべを見た。
そして腰の刀を抜き、徐にごんべへ振りかざした。

「わっ」

しかしさすがは吸血鬼。
舞うようにステップを踏み軽々しく避ける。
小さく舌打ちを打ったグレンにごんべは嬉しそうに目を細めた。

「残念だが俺は吸血鬼になる気はねぇ」

「えー…… 残念。でも刀振るった格好いいグレン見れたし今回は我慢しようかな〜」

でも諦めないからね、ときゃあきゃあ騒ぐごんべの元へ真っ白な一匹の鳩が舞い降りた。
鳩の足元に括られている紙切れに目を通す。

「うげ、もう行かなきゃ 」

「何処に行くんだ?」

ごんべはちらりとグレンを見て少し考える素振りをし鳩の頭を撫でる。

「んー、それはグレンでも言えないかなぁ 」

「つれねぇな 」

舌打ちをするグレンを見て笑い、ごんべは出口へ向かっていく。
扉の前へ来たところで何かを思い出したのか声を上げた。

「ねぇ、グレン。好きだよ」

頬を真っ赤にさせ照れながら言うごんべは嘘を言ってるようには見えない。
グレンはじっとごんべを見詰めた後大きくため息を吐いた。

「あー、やっぱお前吸血鬼に向いてねぇや。今確信した 」

くすくすと小さく笑いながらごんべは身を翻し出ていこうとする。
そんなごんべを引き留めるようにグレンは声を掛けた。

「おいごんべ、俺の仲間になれ 」

そんなグレンの言葉に僅かに目を見開けばにやりと口の端が上がったごんべは口元に手を当て考える素振りをする。

「そしたら御望み通り俺と一緒に居れるぞ」

得意気にグレンは言うがごんべの顔はすっきりしていないようだ。

「うーん、それだと面白味がないよ」

「はぁ?」

コイツは何馬鹿な事を言ってるんだ、と呆れた目を送っているがそんな彼をお構い無しに「……あ!」と声を上げた。

「仲間になってもいいよ、今は捕まらないけど」

「おい、言ってることが矛盾してるぞ」

如何にも意味がわからないと疑問を持った顔をしたグレンにごんべは挑戦的な笑みをする。

「私を捕まえてみなよ」

髪を靡かせ月明かりに照らされるごんべにグレンは一瞬目を奪われた。
そんなグレンの様子に気付いているのかいないのか、ごんべはお構い無く言葉を続ける。

「あ。グレンが私を狙うなら私も全力でグレンを吸血鬼にしに行くからね」

「……へぇ、大層な自信で 」

「あはは、自信はあるよ!その顔はOKってことかな? 」

「はっ、次会った時覚悟しとけよ 」

嫌らしく、そして不敵に笑うグレンにごんべは胸を熱くしていた。

「(次会うときが楽しみだなぁ……)」


(追うのも良いけど追われるのも好き!)