▼ 05 私が私じゃない
朝が来た。
今日なんて来なければ良いのに、とどれだけ神頼みしただろうか。
吸血衝動には波があるのか、又はまだ体が馴染んでいないのだろうか、今の所は収まっているようだ。
ふぅ、と一息吐きまだ寝惚けてる体を起こすべく頬をぱちんと叩いた。
____
「ごんべおはようございます。て、あれ?」
「?」
「ん〜ごんべ貧血ぎみですか?顔色悪いですけど」
「特に貧血って訳じゃないけど…」
顔色だけじゃない、吸血鬼になった事でごんべの肌は若干白くなっていた。
自分は本当に人で無くなってきている、沈んでいく心をわざと気付かぬ振りをした。
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「今日は壁外の見回りですね」
「うむ、吸血鬼と会う可能性は低いが気を引き締めていろ」
「えー、吸血鬼殺せねぇのかよー」
「えーじゃないぞ優!」
壁外の見回りなら主な敵はヨハネの四騎手だろうか。
吸血鬼に比べれば可愛いものだ。
だからだろうか、どことなく雰囲気が明るい。
しかしその中でも一人、ごんべの顔色は優れなかった。
「(こんなに太陽って眩しかったっけ…。)」
空は澄んでいる青が何処までも続く晴天だ。
軽い熱中症になっているのだろうか、そう考えたごんべは日陰に避難した。
「あれ、ごんべちゃんだ。どうしたのこんなのとこで」
「与一君」
お隣失礼するね、と言い私の隣へ座る与一。
彼は人間観察が好きだから私がいないことに気付き探しに来たのだろうか。
そんな事を考えていると与一が私の顔をじっと見てふと、言った。
「…ごんべちゃん、何か変わった?」
「…え?」
「あ、変な事言ってごめんね。でも何て言うんだろう、雰囲気が変わってるっていうか、ごんべちゃんなのにごんべちゃんじゃないっていうか…」
「え〜、私は私だよ」
「だよね。ちょっとどうかしてるかも僕」
じゃあ、僕は向こうに行ってるよ、と言い残しこの場にはごんべしか居なくなった。
ごんべは今の与一の発言に動揺していた。
彼は私が吸血鬼だと知っているのだろうか。
だとしたらまずい、私は私が吸血鬼である事を隠さなければならないのに。
そしてここである疑問が生まれた。
「私が吸血鬼だと知ったら、皆どうするんだろう」
(多分きっと、あの人に)
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