優ちゃん | ナノ

 03 告白と、告白

あの後のことは覚えていない。
否、気を失っていた。

「…………ん」
「あ!ごんべ、大丈夫ですか?」
うっすらと涙を浮かべるシノアを見て、長い間眠っていたと理解した。
シノアに平気という有無を伝え、今までの経緯を教えてもらう。
私がフェリドに襲われていた時、皆も他の吸血鬼に襲われていたようだ。
そして優一郎が来た一瞬の隙に逃げ出したらしい。
「あ、ごんべを抱えて逃げたのは優さんですよ」
後で御礼でもしてはいかが?、と言い残し出ていったシノアの後ろ姿を見送った。

吸血鬼に血を飲まされたらどうなるのか。
自分は吸血鬼になってしまうのだろうか。
ふと立ち上がってみるが特に異常はない。
腕を組み眉間に皺を寄せ考えているとドアが開いた。
「ごんべ!大丈夫か!?」
「あ、百夜く……わ!」
ドアの方を振り向くと同時にごんべは優一郎にぎゅっと抱き締められた。
突然の出来事に目をパチクリさせたごんべだが、不思議と心地よかった為そっと手を後ろに回した。
「無事で良かった」
「うん、助けてくれてありがとう」
ごんべが無事だった嬉しさでにこにこしていた優一郎だがごんべが立ち上がっているのをみて顔をしかめる。
「何立ち上がってんだよ、まだ病み上がりだろ」
「あー、うん、ごめんごめん」
あははと笑って誤魔化すごんべのおでこを優一郎は軽く小突いた。
そして何かを思い出したのか「あ、そうだ」と口を開けばごんべの顔の前にビシッと指差した。
「優一郎」
「ん?」
「だーかーらー、苗字じゃなくて名前で呼べってんだよ」
「ゆ、優一郎…くん?」
戸惑いつつもそう言うと優一郎は満足げに笑いごんべの頭に手を置いた。
「ん。今日から俺の事はそう呼べよ」
ま、本当は呼び捨てが良かったんだけど。 なんて言葉が聞こえた気がしたが苦笑いを返しておく。
「もう飯だから早く食堂行こうぜ!……っとそういえば」
手を掴んで走り出したかと思えばいきなり立ち止まった為おもいっきり優一郎の背中に顔をぶつける。
「痛、いきなり止まらな―――っ!」
「消毒しないとな」
目と鼻の先にいる優一郎に驚いたのも束の間、唇同士がくっついた。
引き離すにも優一郎の手はごんべの頭をしっかりと掴んでいる為逃げ出すことは不可能である。

「はは!ごんべ顔真っ赤だぜ!」
「そ、それは百夜くんのせい!」
「優 一 郎 !」

異論は認めない、名前で呼べ!というオーラをまといながらごんべを見つめる優一郎に言葉が詰まる。
「っ、…優一郎君のせいです」
「ん、よろしい」
満足げに笑う優一郎はごんべの頭に手を乗せる。
心拍数が上がるのを感じたが不思議と嫌な気はしない。
自らの頭から伝わってくる心地良さにごんべは目を閉じた。
(調子の良い彼の行動だけど、嬉しく思う自分がいる)

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