優ちゃん | ナノ

 02 君の傍にはいられないのかな

「此処が……」

渋谷に着いたシノア隊一行。

荒廃した町の中、瓦礫と瓦礫の隙間に青々しく生えている草が眩しい。
「吸血鬼が現れるまでここで待機、だそうです」

なので緊張感を持ちつつちょっと休憩ですかね、とシノアが語ると皆の緊張が緩んだ。

しかしその中に黒いオーラを放っている異様な彼がいた。

「優くん、どうかした?」

与一が控えめに尋ねると目を細目ながら彼は「……寝癖が治らなかったんだよ」と言った。

「あっはははは」

「なんだよシノア!笑ってんじゃねーよ!!」

「なんだ優、お前も見た目とか気にするタイプだったんだな」

シノアと三葉が優一郎を容赦なく弄っていったため向こうで拗ねてしまっている。
その近くでは与一と君月が慰めていた。

「大丈夫だよ優くん!誰も優くんの事なんて見てないから!」

「与一、お前それダメージ与えてるぞ」

「え!?わあああごめんね優くん!」

さらにダメージを受けてしまった彼を慰めるべく私は重い腰を持ち上げた。


「百夜くん、大丈夫?」

地面に手をついて項垂れている彼の肩に手を乗せる。

「うう、ごんべか……。どーせお前も俺をからかいに来たんだろ…」

これは重症だ……。

「違うよ…!それに百夜くんは寝癖があってもかっこいいし」

「……かっこいい?」

「うん、……あ」

顔に熱が集まるのを感じた。

顔を隠すべく必死に手を降り顔を背けるが優一郎は此方を見てにやにやしているだけだった。

さっきまでの落ち込んでいる百夜くんはどこへ…!?


「へえー、かっこいいかー。ふーん。ごんべからそんなことが聞けるなんてねー」

「ち、違う!嘘だから!」

「嘘なのか?」

「え、嘘じゃないけど…って百夜くん!」

からかう優一郎を睨むが笑いながら頭を撫でられ効いてないようだ。
く、悔しい…!



「皆さん、中佐から伝令です。渋谷4丁目にいる舞台の助けにいけとのことですので今から移動します。」
そうシノアが言ったので私達は今渋谷4丁目にいる
「死ねえええ吸血鬼!!」

「優さん前出すぎです!隊列を乱さないですください」

「!貴族の吸血鬼…」

前方にいるのは貴族の吸血鬼、フェリド-バートリー。
相手は此方が来るのをわかっていたのか、口元を緩ませながら待っていた。

「皆さん!相手は1体です、陣形を保てば勝ち目はっ」

「あは、残念でした」

彼の周りに新たな3体の貴族の吸血鬼が現れた。

隣のシノアから舌打ちをする。
それだけ危険な状況下なのだろう、冷や汗が止まらない。
そして皆が目を見開く中、違う意味で目を見開いてる者がいた。

「ミカ…?」

冷たい雰囲気を放つ青目の青年に声をかけた優一郎。
そして優一郎の手を取り此処を飛び出す青年。

「優ちゃん、ここから逃げよう!」

「は…?っておい、ミカ!?」

「優さん!!」

優一郎を除いたシノア隊は目の前で起きたことに動けなかった。

そしてそれが隙となってしまった。

「余所見してる場合かな」
「――っ!」
いつの間にか目の前にいた吸血鬼――フェリドに地面へ叩き付けらる。
さらに首を絞められながら押さえ付けられてしまったため起き上がることが出来なかった。
「…へぇ。こうしてみると君、結構顔整ってるね」

ここで殺すのは勿体ないなあ、と語っている彼の雰囲気は私を恐怖へ突き落とすのは簡単であった。

怖い、怖い、殺される。

「あ、そうだ。面白いこと思い付いた」

何を思い付いたのか、彼は自分自身を傷付けた。
傷口から溢れ出す血を口に含み、あろうことか顔を近付けてきた。

とんでもない行動に目から涙が溢れた。

必死に体を動かし逃げ出そうとするが吸血鬼の力に勝てるわけもなくびくともしなかった。

あぁ、ここで血を吸われて死んじゃうのか。
諦めかけた時心のそこから待っていた声が聞こえた。
「諦めてんじゃねえごんべ!!!」
真っ黒だった心に一筋の光が現れた気がした。
彼だ、百夜くんが助けに来てくれた。
「百夜くん!」
口を開き言葉を発した瞬間、目の前に影がかかった。
油断した隙にフェリドにキスをされたのだ。
そして口の中に入ってきた液体。
気持ち悪く吐き出したかったがフェリドはそれを許さなかった。

――ゴクリ

彼の口には血が付いていた。
そして口の中に広がる鉄の味。
私は彼の血を飲んでしまった。
(意識がなくなる直前にみたのは、怒り狂う彼の姿)

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