▼ 03
「今 意識がある奴。このまま訓練受けてきゃ 鬼呪装備契約の儀に移れる可能性がある。
あと立ってられた奴、お前らは優秀だ。今すぐ黒鬼シリーズに挑戦させてやる 」
現時点で立っているのは優一郎、君月、与一、シノア、私の5人だ。
特にシノアは攻撃中でさえも余裕な顔で立っていたらしい。
恐るべし、柊家。
グレンの攻撃を耐えたごんべ一行が連れてこられたのは最上位の鬼神を封入した武器が集まる部屋。
誰かに監視されているような、何者かの圧迫感に無意識に手に力が入る。
「……ごんべちゃん?」
「え、」
力が入り爪が食い込んでいたごんべの手を与一がそっと包み込んだ。
彼は呆気にとられたごんべに構わず言葉を続けた。
「手に力が入ってたから。大丈夫?」
ごんべだって年頃の女、異性に手を握られたら少しどきどきする。
「う、うん。ちょっとここの雰囲気に驚いちゃって」
「でもごんべちゃんは女の子なんだから…」
「優、与一、君月の3人は好きな武器を選んで儀式陣に入れ。武器に触れたら契約が始まる 」
そしてグレンはちらりと私とシノアの方を見る。
「あー、お前らは適当にこいつら見とけ」
中佐の言葉に疑問を持ったのか、優一郎が質問してきた。
「ごんべも鬼呪もってんのか?」
「うん、鈴鹿御前っていう鬼なんだ」
鬼との契約は難しい。
鬼に負ければ自分は人喰い鬼になるか鬼の力に押し潰されて死ぬ。
焦りや怒りをもっていると鬼に乗っ取られやすい。
そんな中優一郎と君月は自信満々だが対する与一は不安げな顔だ。
「与一君、大丈夫かな…」
円陣の方へ歩いていく彼の背中を見ながら呟く。
今は成功を祈るだけだった。
______
そんなごんべの願いはすぐに崩れる。
目の前には人喰い鬼と化した与一。
さっきまで喋っていた、私の心配をしてくれた与一君が…、初めて目の当たりにする光景に足がすくむ。
「人間が1、2、3、4、5… おまけに全員鬼呪装備持ちか…」
そんな彼の様子を見てグレンは呟いた。
「あーあー、まじぃな。与一はやっぱちょい力が足りなかったか 」
この非常事態に全員がグレンを見る。
その視線を受け取ったグレンは上に指を指しこういった。
「人喰い鬼が出た。お前らで始末しろ。」
重く残酷な言葉を放った彼を見つめながらごんべは1つの意見を出した。
「中佐、私は彼を助けたいです」
グレンは変わらぬ表情でごんべを見る。
「お前が今やるべき事は何かわかるか」
「確かに危害を加える前に殺さなければいけません。でも私は友達を失いたくないんです」
「……5分だ、5分だけ待ってやる」
「ありがとうございます」
シノアからごんべ…、と聞こえたが安心させるように笑いを溢し人喰い鬼の与一の前に立つ。
「なんだ?お前から殺してほしいのか」
数分前の与一と同じようで全く違う。
優しい思いやりのある彼を取り戻すべく私は彼の目を見た。
「ーー鈴鹿御前、出ておいで」
ズズズ…、とごんべの後ろに黒い影が現れる。
そんな私に対抗すべく与一は弓を構えた。
「はは、お前から殺してやるよ」
「……待ってて与一君。今、助けるから」
地面を強く蹴り上げ与一に斬りかかる。
狙いは武器である弓を彼の手から離すことだ。
刀の柄で彼の腕を叩き怯んだ隙に弓を奪う、そういう作戦だった。
しかし柄で叩きこんだ時に腕を掴まれ浮遊感を感じるかと思えば背中に強い衝撃を受けた。
要するにごんべは与一に投げられたのだ。
口の中に鉄の味が広がる。
立ち上がろうとするが既に目の前に彼はいた。
「こいつを説得しようたってそんなの無駄だよ」
与一の中の鬼が意地悪く笑った。
顎に手を添えられ無理矢理上を向かされる。
「早乙女与一には欲望がない。生きる目的がなければ守るものもない。だから私に飲み込まれた」
楽しげにそして酔いしれたように語る鬼にごんべは言った。
「与一君は……そんな人じゃないです」
目を細める彼を気に止めず、ごんべは続ける。
今度は与一自身に。
「ねぇ与一君、守るものならたくさんあるよ!君の周りには仲間がいる!ーーだからっ!」
私の言葉に続いてグレンが声を張り上げた。
「おい与一!てめぇはまたベットの下で家族が死ぬのを見てるつもりか!いいからさっさと出てきて仲間を守れ!」
目の前の彼の瞳から涙の溢れた。
「ありがとうっ……!ありがとうごんべちゃん…!」
気付けばごんべの与一の腕の中にいた。
「っ!」
叫びそうになったが、泣いている与一に悪いと思い行き場のない手を彼の頭に置いた。
「おかえり、与一君」
「ただいま、ごんべちゃん」
(こんなに必死になるのはなんでかな)
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