▼ 06
何処までも広がり青く澄んでいる空を眺めながら一息つく。
何もせず、ぼうっとしているこの瞬間が結構好きだったり。
大きく欠伸をして支給されたパンを食べようと手を掛けた時、コツコツと足音が聞こえた。
「こんな所にいたんだ」
「うん、結構良い場所でしょ」
「確かに。空が凄い綺麗だなぁ」
二人の間を吹き抜ける風の心地よさに目を閉じれば世界が荒廃したなんて嘘みたいで。
なんて感傷に浸ってると頬に冷たい何かが押し当てられる。
「えいっ」
「っ!冷たっ!」
「じゃーん!冷たい飲み物貰ったんだ。これ、ごんべちゃんの分」
爽やかな笑顔で言われると怒る気も無くなってくる。
素直に飲み物を受け取れば手に伝わってくる冷たさ。
ごくりと喉に通せばその冷たさが何とも心地よい。
「与一君はあの二人と一緒に車直さなくて良いの?」
「僕、機械はちょっと苦手なんだ。それにごんべちゃんといた方が楽しいし」
「っ、ごほ!」
「うわ!大丈夫!?」
「(だ、大丈夫…、落ち着け自分…!)」
「おーい!与一達!車直せたぞー!」
「わかったー!今行く!」
与一君と共に優一郎君の元へ行けばそこには立派な車があった。
君月君が修理をしたらしいが学生にこんな技術あるのか、ともはや関心さえ抱いてしまう。
「じゃあみなさん、これに乗って新宿に向かいます」
運転席には君月君、助手席には優一郎君、後部座席にはみっちゃん、シノア、私、与一君の順で座っている。
今は機能していない信号機や歩道橋を横目にかつては栄えていたであろう道路を走っていると新宿の方から爆破音が聞こえてきた。
次の角を曲がれば新宿はすぐそこだ。
しかし曲がった先には見えたのは微かな人影だった。
「吸血鬼だ!轢け君月っ!」
車が吸血鬼に衝突する手前に私達はそれから飛び出した。
与一君が吸血鬼に向かって矢を放つが意図も簡単に弾き返される。
「そんな、あんな簡単に…!」
一対六。
圧倒的に此方が有利な筈なのに、この只ならぬ恐怖は何だろうか。
笑顔を浮かべる赤髪の吸血鬼の元へ新たに二体の吸血鬼が加わった事でごんべの足は思わずすくむ。
「吸血鬼の貴族が3人も…」
「…皆さん、鬼が暴走するかもしれないギリギリの力で闘います。でも恐らく、」
「死者が出る。でも、お前ら、それをわかって来たんだろう?」
「勿論。死ぬ気はないけどね」
力を貸して鈴鹿御前、と心で呟けば何処からか風が吹き、それが合図かのようにふつふつと体の底から力がみなぎってくる。
どちらも攻撃を仕掛ける訳でなく、互いに睨み合う状態が続いた。
ごんべの額からじんわりと汗が垂れ落ち心臓が忙しなく動いているのを感じていた。
「ねぇ、クローリー様ぁ、っと!」
「っ、やば」
青い髪をした吸血鬼に対し力任せに刀を振りかぶるが軽々と避けられる。
しかしそんなの予測済みだ。
「与一君!」
「行け、月光韻!」
私の背後から放たれた鳥は瞬く間に吸血鬼の元へと迫る。
「うわぁ、当たる〜!…なーんてね」
彼女はタンッと後方へ飛び移り、腰から抜いたレイピアで攻撃を跳ね返す。
しかもそれは運悪く与一君の方へ。
遠距離武器である彼の弓矢では身を守る術がない。
「与一君…!」
「っ、ごんべちゃん危ない!」
彼を守らなければ、その一心で彼の元へ駆け出した。
クスリと後方から控え目に笑い声が聴こえた時にはもう遅かった。
「背中ががら空きだよ」
急いで振り向くが既にレイピアから放たれた青白い閃光がすぐ目の前まで迫っていた。
「ごんべちゃん!!」
( もう駄目だと諦めそうになった時、不意に腕を引っ張られた )
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