▼ 05
皆、心に何を抱えて戦っているのか。
憧れ、復讐、はたまた別の何か。
人の過去に介入するつもりもなければ自分から聞くこともないだろう。
でもたまに思うのだ。
自分は何を思って戦っているのか。
「一体どういうつもりだ、お前のような奴が部隊を危険にさらす!」
はっと顔をあげれば先程の優一郎の行動に対し三葉が喝を入れていた。
彼女は過去に仲間を失った、だからこそ勝手な行動を取った優一郎を許せないのだろう。
「…そんなに悪く思わないであげてね、仲間思いなだけだから」
「お前は嫌いだッ!」と、言葉を吐きカツカツと音を立てて歩いていく三葉の後ろ姿を眺めながら呟いたごんべの言葉は吹き抜けていった風と共に消えた。
______
「優さんが救出した少女によると吸血鬼は表参道地下鉄の跡地に潜み、人間を飼っているみたいです。吸血鬼の数は7人、なので早朝から昼にかけて奇襲攻撃を行います。」
「私達は6人、対する吸血鬼は7人だけど勝ち目はあるの?」
「うーん、そうですねぇ。吸血鬼全員が武装してた場合絶対に勝てないので逃げます。」
優一郎の異論を制すようにでも、とシノアが言葉を続けた。
「どうせやるなら無傷で敵を皆殺しにしたい、そうでしょう?」
「無傷で奴らを皆殺し…いいじゃねぇか」
メラメラと闘志を燃やす彼に苦笑いを溢す。
元気が良いなぁ…、なんて急に年寄りみたいな感想を思ってみたり。
「あ、ごんべ。ちょっと頼みたいことが…」
シノアからの命令は意外なものだった。
「え、私だけ隠れて警戒?」
「はい。情報を鵜呑みにするのは少し危険ですので」
「確かにそうかも…。わかったよ、任せて」
そう言ったものの私が動かなければならない時、即ち仲間が危険な目に合う時が訪れないことを祈るばかりであった。
しかし、その願いは叶わなかった。
残りあと5人、そう皆が油断していた時いきなり三葉の背後にあった窓から吸血鬼2体が侵入してきた。
「はぁっ!」
刹那、ごんべは物陰から吸血鬼目掛けて一直線に飛び掛かり1体を切り伏せた。
もう一体にも同じように刀を振り上げる。
しかし先程のようにはいかずくるりと身を翻した吸血鬼に殴られた。
「ごんべちゃん!」
「…いったいなぁ」
吸血鬼を睨めば奴は三葉を拘束しており私達は吸血鬼達に囲まれていた。
最悪の状況に舌打ちをし、何か突破口はないかと考える。
「私はもう無理だ!見捨てて早く逃げろ!」
「うるせぇ!仲間見捨てて逃げわけねぇだろ!今すぐ助ける!」
こういう時、優一郎の猪突猛進さには救われる。
吸血鬼に駆け出す彼を守りながら他の吸血鬼と刀を交える。
「ごんべ!後ろ!」
「え」
後ろへの注意が足りなかった。
急いで振り返った時には既に刀が降り下ろされていて。
間に合わない、来るべき衝撃に耐えるべく目を瞑った瞬間聞こえてきたのは彼の声だった。
「行け、月光韻」
勢いよく飛び出した黒い鳥は刀が当たる直前に吸血鬼を薙払った。
「よ、与一君…!」
「ふぅ、間一髪だったね。大丈夫?」
「うん、ありがとう」
にこりと笑えば「よかった」と彼も微笑む。
そんな彼の顔を見ればきゅうっと胸が締め付けられる。
この感じは何なのか。
体が暖まるようなふわふわするこの感じは何なのか。
分かってる癖に。
あぁ、重症だな。なんて心で苦笑したり。
一緒に戦える今が幸せ、それ以上は望まない。なんて芽生え始めた気持ちに蓋をするように残りの吸血鬼と向かい合う。
「行くぞ、吸血鬼を殲滅する!」
優一郎によって救出された三葉の声によってメンバーが大きく1歩を踏み出した。
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