!妹主/悲恋
「そんな怖い顔しないでよ」
私がそう言うと、いつも無感情を貫く声が不機嫌に歪む。どこが、と馬鹿にしたように言うけれど、生まれてからずっと一緒にいるのだ。ちっとも動かない表情筋に慣れ切ってしまった私に、イル兄の機嫌の良し悪しくらいわからないはずがない。
「キスしてくれたらさ、もう我儘言わないから。いいでしょ?」
寝そべっていたイル兄の身体が揺れる。跨がっていた私と、ちょうど向き合うような体勢になった。まさかあのイル兄が、お願いを聞いてくれるだなんて。
もともと叶う恋だなんて思っていなかった。いくら常識外れな我が家でも、兄妹で、ましてや双子だなんて。
嫁入り前夜、夢にまで見たファーストキスとともに、そっと思い出を捨てた。
お題「"そんな怖い顔しないでよ"で始まり、"そっと思い出を捨てた"で終わる」