優しい嘘なら許されますか?そう言った私に、何の感情も篭ってない目を向けたのはもう何年前になるだろうか。イルミから返ってきた答えはノーだった。私と彼が夫婦になるにあたり、ひとつだけ約束事が交わされた。オレに嘘をつかないこと。ただそれだけでいいと言われ、恋愛結婚なんかではないのに、随分優しいものだと呆気にとられたのを覚えている。そんなことを考えながら自室で書類を整理していれば、いつのまにか帰ってきた彼が部屋に入ってきた。

「おかえりなさい」
「うん。ただいま」

いつも通りの短い会話を交わした後、彼は珍しく仕事着のまま、プツリと薇が切れたかのようにベッドへ倒れこむ。柔らかなベッドに腰掛けて、彼の長く手触りの良い黒髪を触る。髪を掻きわけるとぱちりと大きな瞳と目が合った。暗闇を湛えたその瞳に吸い込まれそうになる。

「お疲れ様」
「うん」
「ちょっと寝る?」
「うん」
「大好きだよ」
「知ってる」

あんな事を言ったけれど、嘘なんて必要ないことを、本当は知っていた。


お題「"優しい嘘なら許されますか"で始まり、"本当は知っていた"で終わる」
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