11◎密かな恋【原×主】 
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懐かしの地へと足を踏み入れ、当時の面影を探すのは原田左之助。
「変わんねーな…」
変わらない町並み、変わらない人々。
ただ変わってしまったのは、彼らがいない事だけ。
たったそれだけの事が、ぽっかりと胸に大きな穴を開け、いつまでもあの頃の自分が前に進めずにいる。
壁にもたれ掛かり煙管を咥えると、青い空に飛び立つ小さな鳥を眩しそうに見つめた。
『きゃあ!』
不意に聞こえた悲鳴に眉を寄せると、通りにしゃがみ込む女を見つけ思わず身を乗り出した。
『え?ああ、すみません。余所見をしていまして…』
男は女の襟を掴み立たせると睨み付け、顔を覗き込みと落ちていた風呂敷の荷物を踏み付けた。
「全くだ。ボケーと立ってんな!」
行き交う人々も大きな怒鳴り声に驚き振り返り、野次馬が周りを囲み出すが、反対に女は苛立った様子で顔を上げた。
『……これに罪はないでしょう』
真っ直ぐ男を見つめる視線は迷いなく、風になびく着物さえ浅葱色の羽織に重なって見えた。
原田は拳を握り瞳を輝かせ、胸に湧き上がる熱い想いを必死に抑える。
《やっちまえ!》
そんな野次まで飛ばしてしまいそうになると、女は男の腕を掴み自分の身体へ引き寄せた。
ぐるりと一回転し地面に投げると、受け身を取る間もなく地面に叩きつけた。
「ぐあ!!」
汚れた手を祓いながら眉尻を上げると、男達は今度は後ろから襲いかかった。
ーガン!!
「ぐわ!」
鈍い音と共にひとりが頭を抑えてしゃがみ込むと、女の足元に煙管が転がった。
「女ひとりに寄ってたかって何を騒いでんだ」
「何だてめぇ!!」
うっかり考えも無く助太刀してしまった原田は、“しまった”と狼狽え身じろいだ。
女が目を細めこちらを睨むと、建物の影になり顔が見にくいのだろうと気が付いた。
自分を覚えてくれているだろうか。
最後まで新選組として戦えなかった事を憎んではいないだろうか。
疎まれてはいないだろうか。
不安材料をぶら下げて立ち尽くす原田は、次から次へと良くない事ばかりが頭の中を巡り始める。
『まさか…。そんな…』
ただ、理由よりも何よりも、その声に胸を締め付けられてしまう。
忘れもしない。
あの声、あの笑顔が甦る。
原田は覚悟を決め物陰から顔を出して、いつものあの笑顔で笑った。
「よう!ひなた」
『さ、左之さん!?』


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