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朝も早くからひなたは身支度に追われていた。
「本当に行ってしまうのか?」
斎藤が寂しげに玄関に佇み、その足元には小さな秋吉が指を咥えていた。
「だ…」
『なーに?』
ひなたは振り返らず、秋吉の頭を撫でる。
「だ?」
『そうよ。留守番しててね』
「だ!」
『それはお父様にお尋ねしなさい』
「何故わかる…」
『じゃあ、出掛けてきます。秋吉をお願いしますね』
「ああ、ゆっくりしてこい」
『ありがとうございます』
「早く帰っても良い」
『……』
ひなたは下駄を履き、風呂敷を抱えると笑顔で手を振った。
『じゃあね、秋吉』
「にゃ!?にゃ、にゃにうえ〜!!」
秋吉は後ろを向いて玄関を降りようと、短い足を伸ばしモゾモゾと動く。
「こら、待て。どこへ行く」
「にゃあ!!!」
「にゃあではない。母上を見送る…「にゃにうえーー!!」」
「……秋吉、母上だ」
斎藤に捕まり肩に乗せられると、呆然とひなたの背中を見送った。
「ひ…」
「あ、秋吉?ま、待て」
「ぎゃ〜ーーーーー!!!」
充電完了と共に、鼓膜が敗れそうなほどの大きな声で秋吉は泣き出した。
大粒の涙が流れ咳き込むと、斎藤は眉間にシワを寄せながら背中を撫でる。
「よしよし。母上は夕刻には戻る。たまにはゆっくりと出掛けさせてやらないとな」
「だ」
秋吉は啜り泣きながら斎藤の胸を押し、拒否の合図を送る。
「……」
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