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時は幕末。
動乱の時代を駆け抜ける男がいた。
「待てーっ!!!」
男の名は秋吉。
折角の非番にスリに合う間抜けだ。
通りで女に見とれ、うっかり肩をぶつけたところを捕られた。
「マティス!!じゃなくて待てっつーの!!!」
─あの財布だけはマズい!ひなたに貰ったばっかなんだよ!!
秋吉は半分泣きながら追い掛ける。
相手は迷路のような京の都を迷いもなくすり抜ける、恐らく常習犯だ。
─大須だって迷子にならずに帰れるんだぞ!!
新選組の名にかけてここは逃がすわけにいかない。
などと意気込んだ割には呆気なくまかれてしまった。
「いない!?マジかよ!?ドラえもーん!!」
角を曲がる時に足がもつれて転んでしまう。
肩で息をしながら壁にもたれかかり呟く。
「はぁ、はぁ…。あの女…何もんだ…!?」
頭を抱えて暫し悩むが、空が茜色に染まりだしたので一旦帰ることにした。
屯所に住んでいるのに、帰り道を尋ねるのが妙に恥ずかしい。
『お帰り、秋吉』
縁側で斎藤とお茶を飲みながら手を振るひなたが見える。
─避けて来たのに何故会う!?
『ん?』
鋭く察知したかのように、秋吉の側へとやってくる。
「な、何?」
『膝!』
「え?」
『血がついてる!』
「え…、ああ…、ホントだ」
さして気にもならないようで、袴の誇りをはらう。
『どうしたの?』
「こけた」
『転けて膝擦りむくって…、小学生じゃあるまいし、どんだけ走ったのよ』
しゃがみ込んだひなたが秋吉の顔を見上げると、今にも泣き出しそうな目をしていた。
『…大丈夫よ。言ってごらん』
「…ごめ…。財布…落とした…」
『─ああ…。それで』
ひなたは納得して笑いながら立ち上がると言った。
『誰がうちの可愛い弟をいじめたのよ?ねぇ、はじめさん』
「…そうだな。敵討ちに行かなくては」
二人は顔を見合わせて秋吉の肩を叩いた。
口元は笑っていたが、秋吉の目には涙が滲んでいた。
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