12◎離さない【斎×主】 
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『嫌!止めて下さい!』
「…俺から離れていくなど許さない」
『え…』
降りそそぐ陽ざしに輝く川の流れは眩しく、瞳を開けていることが出来ない。
けれども斎藤の目に見える、なつかしい映画のように 映される日々。
欲望も愛情もむきだして、何をわかりあえたのだろうか。
あの時、確かに何かを背負って、明日に向かって生きていた。
もう嫌だと叫んだ、燃えるような夜は遠い記憶。
離れても、体の中に熱さが残り、それぞれの言葉で祈り続けた。
『ごめんなさい…』
ひなたが呟いた言葉の意味がわからず、斎藤は眉間のしわと掴んだ手を緩めた。
『ほんの出来心で…』
斎藤の頬に手を添えると、彼は頬を摺り寄せた目を逸らした。
『ごめんなさい…』
斎藤は肩を震わせ、ひなたの胸に顔を埋めると、消えいるような声で囁いた。
「…この気持ちを伝える言葉を持たぬ」
『うん…』
「…捨て置くな…。俺は…。俺は、好いた相手を手放せるほど、優しくはない…。お前はあいつを…」
『はじめさんなんか大っ嫌い』
「ー!!」
斎藤は身体を起こしてひなたを睨むと、ひなたも起き上がり斎藤を睨んだ。
『嫌い』
「嫌いと言うな…」
『嫌い』
不貞腐れたまま斎藤は視線を逸らし、胡座をかくと頬杖をつきながら川を見つめた。
ひなたは前に回り込んで斎藤を睨みつける。
『ただの社交辞令よ』
「…お前は俺のものであろう?」
『だから、それは…』
「俺を見ていない」
『こんなに傍にいるではないですか』
ひなたも口を尖らせて、抗議を始めた。
「姿が見えないと不安だ…」
『はい…』
「俺から離れるようなことがあれば……斬る」
『そんなに怒ってるの…?』
ひなたが首を傾げて啄ばむように口付けると、斎藤はチラリとこちらを見て少し頬を染めた。
『ごめんね…』
背ける顔を追い掛けて、何度も何度も口付けると険しい表情も次第に緩み始めた。
「どうしようもなく好いている…」


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