11◎密かな恋【原×主】 
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斎藤の無事を聞いた原田は蕎麦屋で酒を呷り、ひなたの幸せそうな笑顔を思い出しては複雑な心境になる。
暖簾をくぐり現れた斎藤は、原田を見つけると目を丸くして驚いた。
瞳の輝きは喜びを表し、こちらの密かな想いなど一瞬で消してしまう。
「よお!斎藤!」
「さ、左之!?お前!!」
「まあ、まあ、積もる話もあんだろ?こっち座れよ」
ポンポンと椅子を叩き促すが、斎藤は呆然と佇み足は動かない。
『よいしょ、よいしょ』
背中を押されて我に返ると、機嫌良く笑うひなたの反応に気が付いてしまった。
「ー!ひなた、お前…」
『えへへ、びっくりした?』
斎藤は呆れたような顔で髪をくしゃりと乱すが、やや合って声を押し殺して笑った。
「…やられた」
『でしょ。隠しておくの大変だったんだから』
斎藤と原田は目を合わせ苦笑すると、数年ぶりに顔を合わせたにも関わらず違和感も無く話し始めた。
原田は隣に腰掛けた斎藤の肩を抱くと、盃に酒を注いだ。
「変わんねーな、お前らはよ!」
「あんたも元気そうで何よりだ」

変わらない友、変わらない会話。
仲睦まじい二人を見ると、時の流れに取り残されてしまったかのように寂しくなる。
原田は頬杖をつきながら、酔い潰れたフリをして目を瞑り机に伏せってしまう。
「おい、左之。しっかりしろ」
斎藤が肩を揺らして起こすと、ひなたが原田の上に乗っかり頭を叩く。
『しゃのしゃん!こりゃあ!』
「黙れ酔っ払い。離さぬか」
『しゃーのしゃーん!』
「離せ!ひなた!左之、あんたも気を付けて帰れよ」
暴れるひなたを担ぎ上げると、斎藤とひなたは店を後にした。
元気な声が遠のくと原田は顔を上げて、ぽっかりと空いた席を見つめて撫でる。
胸の痛みに効く良い薬も無く、原田は口を尖らせ酒を煽ると店を出た。
暖簾をくぐり、ふと見上げると、冷んやりとした夜空に星が散りばめられ、変わらぬものを見つける。
ひなたをおんぶしている斎藤はとても幸せそうに笑っていた。
「ちぇ…」
あれは身を引いたのか、それとも逃げ出したのか。
自問自答を繰り返すが納得のいく答えなど出るはずも無く、小さくなる後姿を切なげに見送ると、頭を掻きながら背を向けるように帰路につく。
原田とひなたの道は、最後まで交わることはなかった。

『…はれ?しゃのしゃんは?』
「さあな。梯子酒だろう」
『しゃみしいね…』
「ああ…。行く道が違うのだろう」
『しょっか…。はじめしゃん…』
「なんだ?」
『吐きそ「飲め」……』


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