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明くる日、秋吉は山崎と京の都へ出ていた。
「最近羽振りの良い問屋がある。そこを調べに向かう」
目的の問屋まではかなりの距離があった。
─!?
向かいからやってくる女の顔に見覚えがあった。
間違う筈が無い。
女は此方に気が付かぬようで、すれ違う隙に腕をしっかりと掴んだ。
「よう。久しぶり」
ニカッと笑って見せたが、秋吉の目は笑っていない。
「声を出したらへし折る」
女が叫ぼうとすると腕を捻り耳打ちすると、肩を震わせ大人しくなる。
そして狭い路地へと無理やり押し込んだ。
「秋吉君?」
「すいません、ちょっと野暮用で!すぐ戻ります!」
山崎は困ったように溜め息をつくとじっと睨み付けた。
─ヤベ…
女へと向き直ると手を離し上に上げた。
「ごめん。騒がれると困るから。用件はわかってるよね?」
「はい…」
悲しそうに俯く睫毛は長く、良く見ると愛らしい娘だ。
懐から財布を出すと秋吉に頭を下げた。
「お願いします!助けて下さい」
ポロポロと大粒の涙が頬を伝うと胸が痛んだ。
「奉行所なんか連れてかないよ。中身はないし、財布は返して貰ったから。家まで送ろうか?」
「いいえ…、私は問屋に買い取られたので家には帰れません…」
訊くところによると、担保代わりに金子3分を受け取り女中として永久に奉公せねばならないらしい。
利息は大変な高利であり、貧しい百姓一家にとって不可能な数字であった。
つまり払えない場合は、女は永久に買い取られることになる。
そして遊女として売られる事になったのだ。
痛ましい話だが、この時代は人身売買が当たり前に行われていた。
「その返済に盗んだのか?」
女が深く頷くとまた涙が溢れた。
「秋吉君!!」
「俺の名は葉月秋吉。あんたは?」
「…竜(たつ)と申します」
「竜…、じゃあお竜さんまた明日ここに来てね!」
「え!?あ、あの!?」
秋吉は手を振り駆けていった。
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