それから5分も経たずに本鈴のチャイムが鳴り、教室に神崎先生の姿が見える。 それと共に及川のくだらない話は終わり、午後一発目の授業、数学の授業が始まった。
「・・・・・・。」
今日の授業内容は、もうじき定期的に行われる学力診断テストが近いためか。 予告なしの抜き打ちで、小テストをやらされることとなった。 その間、教室内は静かな空気に包まれていて、とても落ち着いた雰囲気だったのに。
「ー・・・。」
教卓から監視をしている神崎先生の視線。 テスト時間内に幾度もぶつかっていたせいか。 俺は終始、神崎先生のことが気になって、あまり集中ができなかった・・・。 きっと過去最悪の採点になったに違いない。
「はい。それでは今日の授業はこれでおしまいです。今やったテストは後日、次の授業で返しますので各自それぞれ自己採点しておくように。」
授業終了のチャイムと共に数学の授業が終わり、一気に室内が騒がしくなる。 次の授業は体育。 午後の体育は正直かったるい・・・。 けれどこれ以上エスケープしてしまうと内申に響く可能性が高くなるので、もう気軽にサボるわけにはいかない。
(今日は諦めて、おとなしく投降しよう。)
「浬く〜〜〜〜ん!!」
「うわっ!」
自分の席で筆記用具を片づけていると、再びこっちにやってきた栗毛野郎。 先ほどやっていた小テストの問題用紙も一緒に持ってきて、なんとも情けない声を上げながら人に飛びついてきた。
「どうしよう、どうしよう浬くん!さっきのテスト僕、赤点かもしれない!助けて浬くん!」
(ほぼ教室の真ん中で抱きついてくるな!暑苦しい!)
及川は周りのことなんて一切お構いなし。 目を涙目にさせ、ピーピーと助けを求めてくる。 俺はそんな及川を自分から離れさせようと、
「えと、大瀬くんに聞いてみるのもいいんじゃないかな?」
すかさず大瀬にバトンタッチ。 アッチに行ってくれと言わんばかりに彼の名前で案を出す。
「やだやだ!あんなバカに頼ったら僕までバカになっちゃうよ!」
が、及川は首を横に振り嫌だと断る。 しかもそんなことを大きな声で言うものだから、向こうの大瀬方向から「誰がバカだ!?」と水に油な状態へ。 バトンタッチを不可能にされてしまった・・・。
「ねーねー、助けてよ浬くん、なんとかしてよ浬くん。」
(あーもう、鬱陶しい!!)
懲りない及川に苛々と不快になっていく俺。 あまりの鬱陶しさに、素で毒を吐きそうになったが我慢。・・・我慢。 耐えろ、・・・耐えろ。
「ご、ごめん及川くん。俺も数学はあまり得意じゃなくて、人に教えられるほどじゃなくて。」
「全ッ然いいよ!浬くんに教えてもらえるのなら万々歳。」
「え、あ、ちょ。」
「さっそく今からー・・というのは無理だからぁ。今日の放課後さっそくお願いしてもいい?忘れちゃわないうちにやっちゃいたいからさ。」
「あの及川くん。だから俺ー・・。」
「約束だからね、浬くん。」
「・・・っ・・・。」
及川の折れないしつこさに折れた俺。 さっきまで泣いてたくせに、げんきんな笑顔で一方的に約束を交わさせられる羽目に。
(ハァ・・・。)
これならさっさと断ってしまえばよかったと遅い後悔。 結局、俺は深い深〜い溜息を吐きながら、渋々了承したのだった。
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