「さすがに奥さんとデート中の神崎先生に、そうですね。例えばあそこの多目的トイレで、俺を・・・なんて言うつもりありませんから。」
躊躇う彼の顔色を見て面白がる俺は意地悪で、そう言葉を口にした。 けれど神崎先生の耳には、それがどのように聞こえてしまったようだ。
「ー・・構いませんよ。参りましょうか、浬くん。」
俺の腰に手を触れた神崎先生は言った言葉が通り、本当にあの多目的トイレへ俺を連れ出そうとした。
「上映が終わる時間までにはお済ませします。それまでに戻れば、こちらも問題ありませんので。」
「・・・ッ!!だ、だから例えばの話だって!!」
そんな神崎先生にドキッと心が動揺した俺。 腰から下に触れようとしていた手を叩き、自分で作った誘いを自分から断る。
「神崎夫妻のデートに、水さしたり何か企んでるつもりないですから。」
「浬くん。」
「それにまたあんな臭い場所で、ヤりたくないし・・・。」
「本当にいいんですか?」
「!」
それでもさらに誘いをかけてくる神崎先生。 ご機嫌取りのつもり・・・なのだろうか。 今度は彼の企みに俺が戸惑う。
『神崎先生が好き』
それを口にした俺。 既婚者な神崎先生にその想いを抱いても、叶うはずのない想い。 だから想いの人を脅してまで、偽りでもいいから手に入れたかったモノ。 それを何よりも欲しがっている俺。
「参りましょうか、浬くん。」
「に・・・っ、今日は及川たちと一緒なんだから、あんまり長く・・・っ・・・。あんまり激しくしないで下さいね。」
「ご心配要らないですよ。・・・最後まで致すつもりありませんから。」
珍しく押してくる彼の誘いを断り切れず。 その手をそのままにさせたまま神崎先生と一緒に多目的トイレへと、ノコノコ足を向かわせた。
流石、映画館のトイレ。 学校のトイレとは違い、綺麗に掃除されていて隅々まで清潔を保たれていた。 けれどこんな清らかな場所で、似つかわしくない音が小さく響く。
「ん・・・っ・・・。」
今日の神崎先生はやけに攻撃的で、あっという間に溺れた俺。 俺を奉仕した先生の姿が艶めかしくて。 始めから終わりまで、俺はずっと鼓動を早くさせてしていた。
「か・・・っ、神崎せんせ・・・ッ・・・!!」
ダメ、だって。こんなの。 これは偽りだって、ちゃんと分かっているのに。 こんな抱かれ方されたら、俺はー・・・。
「はい、おしまい。」
「・・・ッ・・・!」
それでもいい。 もうそれでも構わない。 だから、このまま最後までしてほしい。 そんな狂った気持ちで、俺は神崎先生の口を奪う。
「ん・・・っ、だ〜め。これ以上は致しませんよ、浬くん?さきほど最後まで致しませんと申したの覚えてませんか?」
「・・・!」
けれどそんな俺の想いは拒まれてしまい。 返された口づけを浅くされ、俺は落ち着きを取り戻す。 でもお預けされた悔しさは怒りさえ覚えさせられる。 さっきまであんなに躊躇っていたのに、余裕こいてる神崎先生をジッと睨みつけた。
「さて。そろそろ戻りましょうか?」
「本当にあっという間でしたね。」
「・・・あっという間だったのは浬くん?貴方が早かったからですよ。」
「!?」
「では先に戻ってますね。それではまた明日、学校で。」 事が済めば用は終わり。 乱れた服を整え、人目を省くとうにトイレから出た二人。 それから何事もなかったかのように別れ、それぞれ自分の席へと戻って行く。
「浬くん、大丈夫?」
隣に座っていた及川が、さっそく小声で具合を確かめるように伺ってきた。 どうやら離れていた時間は少し長すぎたようで、余計な心配をかけてしまっていたようだ。 戻った俺は「大丈夫」と返し、映画館の冷房で冷えた体を温めてたと続けて言葉にして誤魔化す。
「そっか。・・・よかった。」
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