青ノ葉の部室棟の隣には、運動部の子がいつでも汗が流せられるように、シャワー室が設けられている。 自主トレで夜遅くまで居残っても、ここで浴びて寮に帰れば後は夕飯を済ますだけでよし。 文系部にはこういう施設がないから、ちょっと羨ましい。 でも今日は。っというから今日から大浴場を使いたくなくなった俺は、陸上部の練習が終わった空と一緒に訪れ、1番隅っこのブースでシャワーを浴びていた。 もちろん扉の前に1代目のボディーガードを配置し、しっかり俺をガードさせて。
「シャンプーとか貸してくれてサンキュー。空も陸哉も鞄に入れて常にトラベル用を携帯してる理由はこういうことだったのか。こっちは寮と違って何もなくて驚き。」
「気にしなくていいよ。それよりいい加減にしなよ?今日も陸哉のからかいにまんまとハマって。」
「いや、だって万が一ってあるじゃん。ラブレター貰ったのも、すっぽかしたのも事実なわけだし。」
「あとあんまり冥を怒らせないでよ。度が過ぎると僕でも庇えなくなるから。」
自分のすぐ後ろには空がいる。 たったそれだけで俺は安心して汗を流す。 もちろんここには俺ら以外の生徒もいた。 何してるんだろう?という目でチラチラこっちを見てくる視線に、空は落ち着けずソワソワしている。
「・・・随分と鬼頭の肩持つのな。空って鬼頭とそんなに仲良かったんだ。」
「冥は僕以上に真剣にやってるの。そこに水差したら誰だって怒るだろ。」
おかげで不機嫌な空に叱られ、俺もしょぼんと落ち込む。
「空は俺が心配じゃないのか?」
「・・・・・・。」
扉越しに背中合わせで話ながら、もう一度同じことを訊く。 さっきは何だかんだあって答えてくれてなかったから。 それが妙に気になって、ちゃんと答えてほしかったから。 すると空は、
「嫌なら嫌で、それでいいと思うよ。」
っと。
「ちゃんと断ればいいよ。そうすれば相手も分かってくれると思うから。」
「だ、だよな!やっぱりそれでいいんだよな?」
俺が求めた答えとは違ったけど、俺の悩みを出口まで導こうとしていた。 おかげで俺もハッとして、ごめんなさいは間違ってないことだと改めて知る。
「訊いちゃ駄目?理由。鳴が好きそうなイケメンでも断るって言ってたから、なんかあれからそれがずっと気になっちゃって。」
そして空からもさっき有耶無耶に答えたことを尋ねられたから、明人先輩に打ち明けたのと同じことを聞かせた。
「・・・好きな人、いるから。」
「!」
「だから俺はこの差出人とは付き合えない。それだけだ。」
「そう、だったんだ・・・。」
この手の話をするのは照れくさかったけど、空は中学から付き合いのある大事な友人。 他の誰かに言わないって空なら信じられたから明かせた。 そして彼はやっぱり分かってくれたのか。 明かした訳を茶化したり、からかったりなんて真似、絶対にしてこなかった。
「・・・ん?」
でも俺だけ言うのは恥ずいし、なんだか不公平。 こっちはそこまで語ったんだ。 今度は空のを聞きたい。
「空にはいないのか?そういうの。」
そう思いながら、喋るのに夢中でずっとゴシゴシ洗っていた頭のシャンプーをようやくシャワーで洗い流す。 しかし俺はそんな長い時間、頭にシャンプーを付けまくっていたのか。 落ちたと思ったら、シャンプーがまたブクブクと泡を立たせてきた。
(ん?)
変だな?何だろう?そんなに洗い残しあった? そんな状況を不思議に思いながら、浴びてるシャワーでまだまだ流すのだが、やっぱり落ちたと思った頃にまた泡立ってくる。
(え?なにこれ?なんなのこれ?)
全然泡が洗い落とせない・・・。 空のシャンプーって、なんか変な成分でも入ってる? いやいやいやいや、んなバカな。 空も陸哉と同じの使ってるから、そんなバカげた話あるか。
「このバカ、まだ気付いてないのな。」
「ダメだって陸哉。シャンプーが勿体ないって。くすくす。」
するとそのとき、後ろからくすくす笑う空の笑い声が。 いつの間にか戻ってきていた陸哉の声と共に聞こえてきた。
「って言っておきながら、しっかり笑っちゃってんじゃん。オレをちゃんと止めない空も空だからな?」
「え〜。陸哉が勝手にやり始めたことなのに?」
「・・・・・・。」
ので、プルプル震える怒りを堪えて恐る恐る振り返ると、そこには案の定のやっぱり。
「陸哉ーーー!お前の仕業か!これ!」
「お!やっと気づいた!」
ブースの扉によじ登って手を伸ばし、そこから俺の頭に、自分のシャンプーで追加を仕掛けていた陸哉の姿があった。 くっそ!やられた!いつからそこにいやがった!? やっと陸哉に気付くと、彼はぴょんっと身軽に降りて無事着地。 ケラケラと笑い、空も一緒になって仲良くからかってくる。
「あぁ面白かった。実に愉快。マジで気付かない奴、いるんだな。」
「うん、ホントそれ。なんで気付かないんだろう?って言うぐらい鳴、全然気付いてなかったもんね。」
「うるせー!気付くわけないだろ!そんなの!」
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