コツ、コツ、コツコツ。 後ろから足音が聞こえる。足音の主は隠すつもりもないらしく、大胆に距離を縮めてきた。それが誰のものか分かると柄にもなく高揚した。顔に熱が帯びる。 コツコツコツ。 足音は俺の後ろで止まり、不意に背後から二つの手が伸びてきた。ひんやりとした手は目を覆い、暑くなった顔が冷えて心地よい。俺との身長差を考えると、きっと背伸びをしているのだろう。 「だーれだ!」 その声は、紛れもなくあの子のもので。明るく明瞭とした声。 「えー誰ですかー? わかんねーよ」 「もう! なんで分かってくれないの? 銀さん酷いよ」 ぱっと手を離し俺の前に来た。腰に手を当てて当ててもえらなかったことがよほど不服らしい。睨み上げるように俺を見る。 この俺が、声を聞いても分からないなんてことがあるわけがない。本当は足音だけで分かったんだが。 こうやってからかってやると怒った顔がれるからわざとやってるなんて、絶対言ってやんねえ。 1012~1125 |