毎日毎日、よくもまあ飽きずに。と思う。酒癖の悪いあの男は酒がなくなる度にわたしと、わたしの母を殴る。そんな毎日が続けば母が出て行ってしまうのは当然の事。いつかこの日が来てしまうというのは分かっていた。その時はきっとわたしも連れて行ってくれると信じていた。 それなのに。 母はわたしを、あの男のもとへ置き去りにした。 月日は流れて私もついに高校生。母の代わりに殴られるようになったわたしはろくに学校にも行けやしない。痣が目立たなくなった入学式から一月後、ようやくわたしは少し遅れて登校した。もうすでに人間関係は出来上がっていて、わたしの居場所はなかった。 体育の時間、ジャージに着替える時腕や足に残る傷跡がどうしても見えてしまったらしい。「それ大丈夫?」と心配してくれる人と、赤黒く変色している患部や、治りかけの痛々しい傷跡を見て気味悪がる人。 一人の男子がその整った顔を歪めてわたしに近付いてきた。その人は誰にでも気さくに話しかけることのできる、バスケ部の、高尾君、だったかな。 見たくないなら来なければいいのに。そう溜息を吐くとその男子は声を荒らげわたしの手を取った。 「おい! なんだよその傷! 保健室行くぞ」 体育の授業は放り出して、わたしの手を引きずんずん進む。最初は柔らかく掴まれていた腕に力がこもり「痛い」と言いそうになった。 扉を開けると、先生らしい人はおらず、ベッドに肩を押され座る。高尾君は棚の中から包帯やら、色々取り出しわたしの横に腰を下ろした。痣には包帯を巻かれ、新しい傷にはガーゼを当てた。 「みょうじさんがさ、ずっと高校休んでたのってこれと関係あるよな?」 包帯を巻かれた腕を強く握られ思わず声が出そうになるのを堪える。 「ほら、今だって我慢した。痛いなら痛いって言えよ」 「……」 黙るわたしに更に力が込められる。 「……いたい、」 「お、」 「痛い、よ」 ずっと我慢していた。痛い、とかやめて、とか。今まで母がわたしを守って味わってきた痛み。母には随分つらい思いをさせてたなあ。 ぼろぼろと泣きはじめたわたしに、高尾君は引いているかと思ったが「そんなに痛かった!? ワリィ!」と謝った。何故、高尾君は悪くないのに。それでもなお眉根を下げる彼を見ているとなんだか和んで、笑ってしまった。 「なんだ、笑えんじゃん」 ――――― 収拾がつかなくなったので強制終了。高尾君に励まされながら家庭の事情というやつを克服して高校生活をスタートさせたかっただけです。 何故更衣室がないのか突っ込まないでいただけると嬉しいです。 |