例えば大好きなあの子の机に「死にたい」って落書きがあるのを見つけたとして、僕はどうしたらいいのだろう。 話を聞く? 慰める? その落書きを消す? 僕にできることなんて限られている。あの子がなんで死にたいなんて考えているのか、なんでそれを机に書いたのか、僕には分からない。 良く晴れた日、屋上。昼休みはそこで昼食をとることが増えた。だから今日も。そう思って屋上に行くとあの子がいて、ぼうっとフェンスに手をかけ空を見上げている。その瞳は空を映して澄んで見えたけれど、本当は真っ黒に淀んでいた。じっと見ていると僕の視線に気が付いてこちらを振り返る彼女。目が合うと一瞬、恐怖に顔を強張らせすぐ無表情に戻る。 彼女はすっかり対人恐怖症になっている。原因は明白で、簡単なことで、それでも彼女の心を殺すには十分すぎた。世に言ういじめ。彼女がいじめにあう理由なんて僕には分からない。それはきっと彼女でさえも把握していないだろう。何故自分がこんな目に。そう思っているのだろう。 僕は彼女に近づいて、なるべく優しく、怖がらせないように声をかけた。 「大丈夫、ですか」 自分で聞いておいて意地が悪いと思う。いじめにあって、傷心しきって、死にたいとまで思っている人に大丈夫かなんて。死なれては困るから。なんて声をかけていいかわからないから。もっと気の利いた言葉をかけてあげられない自分が忌々しい。いつもあんなに本を読んでいるのに僕のボキャブラリーは乏しすぎる。 例えばそんなやりとりが続いたとして、彼女は僕に心を開いてくれるだろう。僕を頼ってくれるだろう。僕だけを拠り所としてくれるだろう。 そして僕と彼女は結ばれてハッピーエンド。 夢を見た、一年前の。今日は彼女の一周忌。屋上から飛び降りて亡くなった、大好きだったあの子の。 ぼくはあのこをすくえなかった。 |