ドルチェ | ナノ

「まァ とにかくそーいうことなんだ。毎年恒例の行事なんでおいそれと変更できん」

顔を真っ赤に腫らし鼻血を垂らす近藤さん。
少しだけ局長の風格が垣間見えた。しかし次の瞬間にそれはなくなった。

「お妙さんだけ残して去ってもらおーか」
「近藤さん、琥珀も残してくだせーよ」
「え? わたしも?」
「何勝手ぬかしてんだ、琥珀はうちの子ですゥ」
「いや違うし」

こんな人たちのために動くのはやだな。どちらかと言えば志村さんちの子だと思うのだけど。今まで寝そべっていた銀さんが体を起こし鋭い目つきで言った。
俺たちをどかしたいなら、次に発せられる言葉を待つ。

「ブルドーザーでも持ってこいよ」
「ハーゲンダッツ1ダース持ってこいよ」
「フライドチキンの皮持ってこいよ」
「フシュー」
「い、家一軒持ってこいよ」

定春君まで威嚇を始めたからなんか勢いで変なこと口走ってしまった。

「案外お前ら簡単に動くな…いやまて琥珀さん!? 家1軒!?」

そんなわたしたちを見て面白いわけもなく真選組の人たちは桜じゃなく血が舞う花見になりそうだなんて怖い事を言い出した。家1軒とか冗談ですから本当に。
土方さんは刀の柄に手を伸ばしやる気満々。

「待ちなせェ!」

突然、後ろから総悟の声。ここでチャンバラとはいただけない。花見らしく決着をつけようと。彼には珍しいまともな意見だった。

「第1回陣地争奪、叩いてかぶってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃ!」

どこから出したのかヘルメットをかぶりピコピコハンマーを手に持っていた。
叩いてかぶってジャンケンポン大会
花見関係ないじゃん(二回目)
この場にいる誰もが思ったことだった。茣蓙(ござ)を広げ三対三の勝負が始まる。
いけェェ局長ォ!
死ねェ副長!
なんていう歓声や怒号が飛び交う中、私と新八君、山崎さんは審判となった。

「よろしくお願いします、山崎さん」
「え? なんで俺の名前…」
「さっき呼ばれてたでしょ? わたしは宮本です」
「宮本さんか、ごめんね巻き込んじゃって」
「お気になさらず」

挨拶をしてニコッと笑うと山崎さんは顔を赤くした。
勝った方がここで花見をする権利とお妙ちゃんを獲得できる。あんたら山賊!? と抗議するとプラス真選組ソーセージを貰えるらしい。銀さんと神楽ちゃんがすぐに反応。

「ソーセージだってよ、気張ってこーぜ」
「オウ」

そして始まる第一回戦
近藤さんVSお妙ちゃん
相手が相手なだけにわたしも新八君も不安を隠しきれない。最悪代ってもいいよと言うと、私がいかなきゃ意味がないと。

「全て終わらせてくるわ」

お妙ちゃんを見た瞬間、ゾクッと悪寒がした。
―ヤバイあの瞳は…
お妙ちゃんの瞳に恐怖を覚えるも始まるジャンケン。パー対グーでお妙ちゃんの勝利。近藤さんは素早くヘルメットをかぶる。本来なら、セーフなのだが、

「セーフじゃない! 逃げろ近藤さん!」
「え?」
「天魔外道皆仏性四魔三障成道来魔界仏界同如理一相平等…」

何かを唱えるお妙ちゃん。オーラみたいなのが見える。そして、セーフにも関わらず振り下ろされたピコピコハンマー。ヘルメットをかち割った。最早そこにルールなどない。
これに真選組の人たちが黙っているわけもなく、何しやがるクソ女ァァ! と息巻くもやんのかコラ、と血走った眼で睨めばあの土方さんや総悟でさえあっさりと土下座した。

「宮本さん、新八君きみたちも大変だね…」
「「もう慣れましたよ」」

どこか遠くを見つめていった。慣れてしまった自分たちを恐ろしく思いながら。

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