青林檎の微熱 | ナノ

真っ暗。息苦しい。酸素がいよいよ足りなくなり。気まずいと思いつつも千夜は水面に顔を出し髪から流れる水を拭う。プールから上がろうと手に力を込める。クスクスと楽しげな笑い声が聞こえる。顔を上げると見知らぬ女子。「面白い練習してますね」とプールサイドに屈んでいた。突然の美人の登場に日向が思わず吹き出す。周りの部員たちも驚いて赤面した。
達観していた黒子も見知った顔の登場に我に返った。彼女は、「テツ君の彼女です。決勝リーグまで待てなくて来ちゃいました」と語尾にハートマークが着くように言い放った。テツ君とは一体誰のことだと頭を悩ます二年生たちに対し、黒子のことをテツヤ君と呼ぶ千夜は勘が働きすぐに彼のことをさしているのだと理解した。
その直後、ぼちゃーん! という先ほどと同じ大きな水音と飛沫。言わずもがな千夜だ。

「黒子ォ、オマエ彼女いたの!?」
「違います。中学時代マネージャーだった人です」

誰かがほっと息をつく。
決勝リーグといったこの人を黒子は桃井さんと呼んだ。中学校からの知り合い。桃井の言動からは黒子への好意が痛いほど伝わってくる。
黒子がプールから上がると桃井は黒子の存在に気が付き、会いたかったと、抱き着いた。無意識かどうかは分からないが胸が、黒子の頭にもろに当たっている。それを目の当たりにした部員たちは羨ましい、死ねばいいなどと思っていた。
先ほど、二度目のプールに落ちた千夜がバシャバシャと水中でもがいている。

「…オイ、蓮見、溺れてねえ?」
「蓮見ー!」

ブクブク言って片手だけだして沈んでいく千夜がいた。その手を水戸部に引き上げられ上半身だけ水から上がり、腕の上に頭を乗せぐったりとしていた。

(やばい、蓮見の物理的と心理的にダメージがやばい!)
(黒子、気付け!)

当の黒子は相変わらずの無表情かと思いきや、そうでもなかった。ほんの一瞬千夜の方へ視線がいき、すぐに桃井へと戻す。

「あ…あの、かんとく……」

ようやくプールから上がることのできた千夜はフラフラとリコに近づき声をかけた。俯いているせいかいつも小さい声がさらに小さい。

「ちょっ…大丈夫!? …じゃないわね」
「はい…すいません、先に学校、戻ってます」

真っ白い顔をした千夜が覚束ない足取りで更衣室へと歩いて行った。

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