青林檎の微熱 | ナノ

無事学力テストを終え、練習を再開した誠凛バスケ部。これで補習という危機は去ったと思われた千夜に、新たな試練が待ち構えていた。
部活動終了後、後片付けをしている千夜をリコが呼び止める。

「千夜ちゃん、明日水着持ってウチ来てね」
「……み、ずき?」
「そう。…ああ、千夜ちゃんは初めてだっけ。ウチのジムのプールでいつも朝練代わりに筋トレしてるんだ」

朝練代わりのプール練。カントクがいて、部員も当然参加するものであるからマネージャーも参加しなければならない、いわば体育館の練習がプールになっただけである。
家に帰り千夜はクローゼットを漁り水着を探し出した。確か、一着は持っていたはず。暫くかかったがようやく見つけ出した水着をぱっと開いた。ショートパンツとセットのもので、ひとまずは安心。

(…これ、まだ着れるかな。……それよりも、)

千夜の不安は着れるか着れないかではなく。

(お、男の人の前で水着着なきゃいけないなんて…。死ぬ。無理。恥ずかしい。死ぬ)

あああああぁぁ! と水着をぎゅっと抱きしめゴロゴロと床を転げまわり悶絶する。彼女にとっては拷問にも匹敵するだろう。自意識過剰だとは分かっているものの恥ずかしいものはどうしようもない。できれば明日にならないでほしいと不毛なことを考えて眠りについた。
翌日。
空は清々しいほど晴れ渡っていた。逆に憎らしくなるほど。鞄に水着、メモ、筆記用具など必要なものを詰め込み、重い足取りでリコのジムへと歩みを進めた。
トレーニング表を作る必要があるため他の部員よりも一足早く到着し、更衣室にて着替えを済ませた。やはり、どうしても恥ずかしかったのか丈の長いパーカーをしっかり着込みチャックも上まで閉めている。
プールに出ると人影が一つあり、女子のように白い背中が目に映る。見慣れた水色の髪の毛。あれは。

「テツヤ君?」
「千夜さん、早いですね」
「あ、うん、やることあって、」
「へえ」

じっ…と黒子の視線が刺さる。な、なに? と聞いてもなんでもありませんとはぐらかされ気になって仕方がない。沈黙に耐えられなくなった千夜はホワイトボードのある場所を教えてもらい、マーカーを走らせ表を書きこんでいると他の部員とカントクが集まった。
そしてまた、じっと千夜に視線が集まる。本人はその理由が皆目見当ついていない様子。
そんな千夜の格好は、水着がすっぽり隠れてしまうパーカーからすらりと白く細い足が伸びている。まるでパーカーの下に何も着ていないようだ。

(ちょっ…蓮見の格好やばいって!)
(いや、あれはあれで需要が…)
(つか無意識こえぇー…)

意識の散漫。

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