青林檎の微熱 | ナノ

火神の存在に圧倒されて今の今まで気が付かなかったが、彼の後ろにも人がいた。つまり千夜の斜め後ろ。昼休みに火神がぐるんと後ろを振り返ったのをきっかけに彼を発見した。水色の綺麗な髪の、火神と比べると小柄な彼。彼らの会話を聞くにたぶんバスケ部だという事がうかがえる。
一人称僕で丁寧な言葉使い。

(この人は怖くなさそう)

そうは思ったが声をかけるなんて行動を起こせるはずもなく、火神同様チラリとみる程度で終わった。
昼休みが終わり午後の授業は眠くなる。火神がまた馬鹿でかい欠伸をし、つられそうになるのを堪えた。その時、手がぶつかり消しゴムがコロコロ床を転がった。落ちた先は千夜が届かない後ろで。席を立って拾いに行くと言う目立った行動もしたくない。どうしたものかと悩んでいると、トンと肩を叩かれた。

「落ちましたよ」

凛とした声に振り返ると水色の彼が千夜の消しゴムを差し出した。

「あっ、りがとうございますっ」

必死に声を絞り出しお礼を述べるも手が震える。彼はそれを怪訝そうに見ていた。消しゴムを受け取り前を向く。ありがとうと伝えられた。千夜は自分なりに頑張ったと言いようのない達成感を味わっていた。そういえば、彼は誰だろうか。苦手とはいえクラスメイトの顔も名前も知らないというのはまずい。

***

誰もいない放課後の教室に向かい、こっそり机を見て名前を確認。
黒子、テツヤ
ぼそりと呟けば呼びました? と後ろから声。びっくと肩が跳ねドア近くに黒子が立っていた。つかつかと歩き近づいてくる。忘れ物をしたらしい。反射的に後ずさった。そこへ巨人、火神も入ってきた。挙動不審に拍車がかかる。火神は何を思ったかずいと千夜に顔を近付けた。短い悲鳴が口から漏れる。

「お前ビビりすぎだろ」
「火神君、蓮見さんを怖がらせないでください」
「ぶ」

千夜の後ろから火神の顔を押し返す黒子。いってーな!と喧嘩をしながら二人は教室から出ていった。
暫く呆然としていた千夜だったがチャイム音で我に返りスクール鞄を肩にかけ帰路についた。

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