青林檎の微熱 | ナノ

部活を終え即行で二年生と黒子、火神、千夜はリコの家に集まり勉強会が始まった。頭にバが付くほど残念な学力の火神は小さな丸い机にノートと教科書を広げ正座をしている。しかしこの勉強会は火神のためだけのものではなく、千夜の壊滅的な英語力を上げるものでもあった。英語は土田が得意なため、火神を教える片手間に千夜にも教えていた。土田が火神から離れられない場合は他の部員が彼女を見ていた。
単語帳を片手にブツブツと呟きながら英単語をノートに書き、教科書をひたすら読んだ。だが、どうしても分からないところはある。自力では解けない。これは、聞くしかないだろう。しかし土田は今火神を見ている。日本の英語が細かすぎると再び開き直った彼に噛み砕いて、懇切丁寧に、教えていた。ならば、他の手の空いている人に聞くしかない。パッと見ると黒子が手が空いていそうだ。

(よし、聞くぞ、深呼吸してから、聞くぞ)

分からない問題を聞くのにさえ緊張が走る。その間じっと見つめていたせいか、黒子が千夜の視線に気が付き、千夜が口を開くよりも先に動いた。

「どうしました?」
「あっ? …えっと、ここ分からなくて」

一瞬驚きながらもここ、と話し慣れた黒子に助けを求める。彼女の指差したところを見るとMikeと表記されていた。

「これ、辞書で調べたけどなかったんだ。もしかして人名? ミケ?」
「…マイク、ですよ」
「じゃあ、これはマリー?」
「メアリーですね」
「……」

教科書を指さしたままふるふると顔を赤らめて震える千夜。黒子はこんなにも英語が読めないなんて、と思いつつもそう読み間違いをするのはよくあることだと励ました。関係ないとは分かっていながら、教科書に出てくる人名の読み方全てを教えた。

「これがトムで、これがジェーン……こっちのはナンシーです」

分かりました? と顔を上げると千夜は唖然としてまじまじと見つめていた。

「すごい…テツヤ君、これ読めるんだ…」

古代の象形文字を読んで見せた様な反応で驚かれ、逆に黒子も驚いた。そして、英語だけは火神を上回っているのだと改めて思い知った。これは、あの鉛筆が必要になるかもしれないと。

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