青林檎の微熱 | ナノ

今日は部活も仕事も休みで、その男は街に出た。丁度、人通りも少なく出かけやすい時間帯だったためか騒がれることもなかった。金色の髪を揺らし、ポケットに手を突っ込みながらぶらぶらと、当てもなく歩く。ふと目に留まった淡いピンク色の車のクレープ屋。その前に女の子が一人立ちクレープを買っていた。お金を払うため、肩に掛けている鞄から財布を取り出す際にはらりはらりとハンカチが舞い落ちた。本人は気付いていない様子。
もしもの話をしてみよう。例えば、落し物を拾って返したとして彼女は黄瀬涼太の存在に気が付くだろう。頬を紅潮させお礼を言うだろう。このチャンスを逃してなるものかとお茶にでも誘うだろう。そうすれば少なくとも退屈ではなくなる。
これは……届けるしかないっスね。そう考えた黄瀬はハンカチを拾い上げ急ぎ足に小さくなっていく彼女の背中を追いかける。後ろから何度か「あの」と声をかけたが自分だと思っていないのかシカト。思い切って肩を叩くとようやく足を止め振り返った。

「これ、落としましたよ」

最高の営業スマイルを作りハンカチを差し出すとその女の子はまず黄瀬の手元を見てからその高い身長を見上げた。落し物をしたという事に気が付き小さく驚く、次にそれを拾ったのがモデルの黄瀬涼太だと知り表情が変わる。最後に赤面。
完璧だった。ここまでは黄瀬の予想通りの反応だった。だが、忘れてはいけないのが千夜は男が苦手であること。モデルの黄瀬涼太に赤面したワケではなくただテンパっただけ。冷や汗をかき後ずさりながらもハンカチを受け取り、短く礼を言って足早に立ち去って行った。
バカな。取り残された黄瀬は自分にまったく興味を示さない千夜に疑問や不安や怒りのような感情が芽生えた。何故自分に興味を示さない? また彼女の背中を追って慎重に声をかけた。今度は怖がらせないように、驚かせないように。

「あの! 俺、黄瀬涼太。知ってる?」
「え!? き、黄瀬涼太、し、知ってます、けど…」

千夜には理解が追い付いていなかった。何故あの黄瀬涼太がこんなところにいるのか、何故よりによって自分に話しかけてくるのか、何故自分はハンカチを落としてしまったのか。モデルとはいえ男は怖い。誰か助けてくれないか。そんなに都合よく助けが入るわけもなく、一人挙動不審になりながらも黄瀬と対話した。話していて分かったのは、この人は悪い人ではない、けれどイケメンだからなのかやたらと押しが強い。グイグイくる。そんな黄瀬の気迫に押され、彼に誘われ喫茶店に入った。
机を挟んで向かいに座った黄瀬はコーヒーを頼み優雅に口にする。

「へぇ、蓮見サンは誠凛に通ってんだ」
「あ、うん。……き、黄瀬君は、やっぱりバスケ部?」
「ん? ああ、そうっスよ。この前誠凛と練習試合したんだ」
「え? そうなんだ。わたしが入る前かな…」

ボソリと呟いたことが黄瀬の耳に入ったらしく「え、もしかしてマネージャーやってんスか?」と食いついてくる。同じバスケ部という事が話題になり千夜はテンパりながらもしっかり黄瀬と対話ができていた。もともと社交的な黄瀬の性格に救われたようだ。黒子や火神ほどではないが黄瀬もそこそこ話しやすい人物だという事に落ち着いた千夜だった。

「じゃあまたね、蓮見っち」
「あ、うん。……蓮見っち?」

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