青林檎の微熱 | ナノ

遅い! 一体何をやってたの!?
体育館に入るなり腰に手を当て仁王立ちのリコがものすごい剣幕で尋ねた。が、ひょこひょこと足を引きずりながら黒子の支えを頼りに歩いている千夜を見て帰りが遅くて心配から、その足は一体どうしたの、という心配に切り替わった。

「すいません…転んじゃって、」

遅くなりました…。しゅんと落ち込む彼女に、戻ってきたことに安堵の溜息をつくと頼んでおいた備品を受け取った。

「痛みはあるの?」
「だっ…大丈夫です問題ないです」
「…そうは見えないけど?」
「っ……」

痛みを気にしないふりをして立っている千夜は、足を庇っていれば痛みは大したことはないがいつものように、ボール拾いなどの動き回る仕事ができなくなってしまった。自分の失態で選手が少しでも練習時間を削っていることに苦心した。
まったく、自分は何をやっているんだ。情けない。
しばらく落ち込んでいたものの、やってしまったことは仕方がない、と割り切ってできる範囲でマネージャー業を続けた。雑用が少なくなった分、時間ができたのでドリンクをいつもより丁寧に作ってみることにする。普段は質より量、だったが今回は質にもこだわって、丁寧に丁寧に。自分でも味見をして丁度良い濃さにして作り上げる。
うん、美味しい。と自分でも納得のいく味に仕上がった。

「ドリンクできましたー」

いつだか、余りの重さに転んでしまったが、あれ以降はなくなった。抱える様にして運ぶと、我先にと水分を求めて多数の腕が伸びてくる。一人一人に手渡していき全員に渡った。丁寧の作った分、みんなの反応が気になりつい飲む様子をじっと見てしまった。ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らしながらあっという間に飲み干す勢いだ。各々が「うめぇー!」と水分を体に取り入れ叫んでいる。全部飲み終えた火神がボトルを見て、千夜を見た。

「今日のドリンク…なんかいつもより上手いな」
「ほ、ほんと?」
「、ああ」

待ち望んだ、味への感想に、子供みたいに笑顔を咲かせて喜ぶ。火神は何とはなしに言ったことでこんなにも喜ぶ彼女に驚いていた。
その様子をじっと、水色の瞳が見つめていた。

(火神君に先を越された…)

どうやら悔しかったようである。

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