青林檎の微熱 | ナノ

「カントク、千夜さん遅くないですか?」
「言われてみればそうね…もう一時間は経ってるし」

体育館の壁に掛けられている時計を見て、あまりに遅い千夜の帰りに黒子が不安そうにリコに尋ねる。携帯にかけてみようと考えたが部活中の使用は禁止だ。第一、千夜は携帯を置いて行っている。ただただ不安が募る中火神が口を挟んだ。

「迷子じゃねーの?」
「火神君じゃあるまいし、それはありませんよ」
「俺だって迷子にゃなんねーよ」
「千夜さんだってなりませんよ」
「え、じゃあ………………何かあった?」
「……」

しーんと静まり返る体育館。まさかと笑う者、心配そうに落ち着きのない者、青ざめる者、反応は様々だった。中でも黒子はいつになく動揺し、練習でもミスを連発した。見かねたリコはあと十分経っても戻ってこなかったら捜しに行くことを提案した。丁度休憩時間に合わせた考えだった。黒子にとっては長い長い、カップラーメンの三分間のように長かった。
そして待ち望んだ十分後。

「僕捜してきます。皆さんは休んでいてください」
「任せたわ」

黒子一人に任せ他のものは心配しながらも体を休めることにした。
リコは今年の一年はフラフラといなくなる人ばかりだと頭を抱えたくなった。黒子然り千夜然り。

(……ん? 千夜さん?)

黒子が千夜を名前で呼んでいるではないか、一体何事だ。もしかして昨日日向たちが練習三倍でいいと言ってきたのはこれが原因か。可愛い娘をどこの誰とも知らん男に嫁がせなくてはいけない父親の気分か。まあ、分からなくもないが。千夜を見ているとその柔らかそうな頬をふにふにとしたくなるときは確かにある。自分も行けばよかったか、と少し後悔した。

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