青林檎の微熱 | ナノ

千夜が入部してから初めての試合、それも公式戦。王者の正邦。そこで勝てば次の王者秀徳。日向たちにとっては因縁があり表情が硬く、千夜も男子の多さに動きが硬いし既に目が潤んでいる。リコと降旗の後ろに隠れながら控室まで移動した。
リコは一年はもちろん、二年たちが硬い事を気にして、腰に手を当て自信満々に一つの提案を出した。

「次の試合に勝ったら…私と千夜ちゃんでみんなのホッペにチューしてあげる!」

どーだ! とウインクから星を飛ばしたリコに男どもは失笑。一方千夜はそんなことは初耳で、頬を桜色に染めて狼狽えている。黒子は一人秘かに口元を歪めた。皆が義理だの何だのと騒ぎリコがキレ、気合を入れ直し試合へと臨む。皆の後に続き控室を出ようとすると黒子に手首を掴まれ足を止めた。

「くっ黒子君? え、どう、どうしたの」
「さっきの話、」
「え?」
「ホッペにチューです。きっとカントクが皆を励まそうとして言ったことです。ですが、」

楽しみにしてますね。ふっと笑うと掴んでいた手首を離し控室から出て行った。ぽつんと残された千夜は数秒間停止したのち我に返りまた顔を赤くした。
勝っては欲しいけれど、ホッペにチューは死ぬ。無理だ。黒子の頬に自分の唇をくっつけるという事だ。

「ああぁぁああぁー……」

控室の中で一人頭を抱えうずくまった。恥ずかしすぎるとか、そんな問題ではない。慣れてきたとはいえまだ千夜にはレベルが高すぎる。

***

試合が始まればリコが指示をだし千夜はドリンクの用意など忙しかったが椅子に躓いて脳震盪を起こした小金井の介抱に一番手間取っていた。試合が終了すると同時に目を覚ました。

「……はっ!」
「小金井先輩。大丈夫ですか?」
「あ、俺転んだんだっけ。試合は!?」
「勝ちましたよ」

王者正邦との因縁もここまで。次は、秀徳戦。

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