青林檎の微熱 | ナノ

その日、千夜は火神を見てそわそわ、うずうずしていた。何か言いたいけれど言い出せない、そんな感じだ。

(よ、よし…!)

練習の休憩中にぐっと握り拳を作り大丈夫、いける。と大きく深呼吸をしてからそろそろと火神に近づいた。背後で彼のジャージの裾をくいっと引っ張り火神を呼ぶ。

「なんだよ」
「あ、の。だ、ダンク! できる!?」

珍しく千夜が寄ってきたかと思えば目を輝かせダンクができるかと聞いてきた。突然なんだと思いつつも、ああ、と返事をすると千夜はさらに目を輝かせ「見せて!」といつもに比べ積極的だった。火神は千夜に話しかけられたことと、自分の得意なダンクを見せてくれと言われ少なからず舞い上がった。

(あの蓮見が…)

その心境はまるで子供の成長を見守るお父さんのようであった。妙にほっこりした火神をよそに千夜はやってやってとせがみ火神の背を押した。黒子にパスをもらい、力強く踏み込み飛び上がる。空中でボールを取りそのままゴールへと押し込んだ。
すとっ。床に着地をすると千夜は拍手をし、凄い、凄い! と連呼する。あまりにも褒められるものだから火神は思わず照れ、頬を掻いた。

「すごいねえ、火神君。わたしもダンクできるようになりたいな」
「そのちっちぇえ背じゃ無理じゃね」
「むー…」

頬を膨らませ不機嫌そうな顔をしたが、フワフワとした空気に誠凛二年には目を細める者や驚く者がいた。
あの蓮見が……火神と仲良く話しているだとっ!? なんだあの微笑ましい光景は。正直言って交ざりたい。俺も蓮見と仲良くなりたい。そんな願望が渦巻く。それを知ってか知らずか火神は得意げだ。
千夜はようやく火神に慣れたようだ。

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