青林檎の微熱 | ナノ

HRが終わり帰り支度をする。椅子から立ち上がり鞄に教科書を詰め込み肩に掛けると「蓮見さん」と呼ばれた。声の方を向くと黒子が何か言いた気に真っ直ぐ千夜の目を見つめていた。黒子の視線が痛く斜め下に目線を逸らす。

「今日、部活見学に来てください」
「…え、」

唐突に切り出した黒子に、千夜は訳が分からず部活、見学。とオウム返し。来ませんか、ではなく来てください。拒否権はないのか。はっと我に返って「いやいや、無理だって。男バスでしょ、死ぬ、絶対死ぬ! メンタル面が!」と両手をぶんぶんふり全力で拒否したが黒子には通じず。自分がいたら邪魔になると火神に助けを求めるも、彼は、千夜の味方にはならなかった。黒子を止めるどころか頭をぼりぼり掻きながら。
あーとりあえず来いよ。
なんて横暴な。

「ちょっ…待ってホント待って。なに、二人はそんなにわたしを殺したいの」
「えっ…いえそんな、つもりはなく、その、」

狼狽え口ごもる黒子にじれったいと痺れを切らした火神にガシと掴まれ、ぐいぐい腕を引かれスクール鞄肩に掛けたまま、半ば強制的に体育館に連れていかれた。いや、拉致られた。不本意ながらも体育館前まで着くと扉の向こうからはバッシュのスキール音、ドリブルの音。いよいよ目の前に来てしまった。ふうっと長い息を吐き出し心臓を落ち着かせていると火神が容赦なく扉を開ける。

「ウィーッス」
「おー火神に黒子ー、と……蓮見、さん?」
「え、?」

各々練習をしていた人がそれをやめ一斉に此方を向く。ひっと小さな悲鳴を上げる千夜。自分の体がすっぽり隠れる火神の背に隠れた。
何故この人達は自分の名を知っていたのか。何故ショートヘアの可愛らしい女子が自分を凝視しているのか。何故練習を続けずに集まりだすのか。ぐるぐるぐる、いろんな疑問が頭を渦巻く。火神に容赦なく前へと引っ張り出され千夜の緊張は一気に高まり、瞳には薄っすら水の膜が張っている。リコは慌ててその場を取り繕うように口を開いた。

「あなたが蓮見千夜ちゃんね? 初めまして、男子バスケ部カントク、相田リコです」
「あ、どうも……え、カントク?」
「ええ。突然だけど、マネージャーやらない?」
「…は、」

突拍子もない事を言ったリコに驚きすぎて声も出なかった。千夜にしてみれば死刑宣告だった。

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