青林檎の微熱 | ナノ

昨日の夜はやはり寝不足で朝から欠伸が止まらない。授業中何度も微睡んだ。教師の声は耳をすり抜け頭になんかはいらない。
退屈な授業を終え休み時間。次は移動教室でクラスメイト達は移動を始めた。机に突っ伏して寝ていた千夜は黒子に体を揺すられ目を覚ました。

「次は移動教室ですよ」
「…あ、」

慌てて教科書を用意し勢いよく椅子から立ち上がる。隣には同じく腕を机上から放り出して爆睡をしている火神がいた。黒子は火神も同様に起こし三人で階段を駆け下りる。早く行かなければ本鈴がなってしまう。その時、寝不足だったためか足がもつれた。

「…えっ…」

気付いた時には階段から足が離れ体は大きく傾いていた。黒子が珍しく焦ったような表情で手を伸ばしている様子が見える。千夜も手を伸ばしたが届かず床に落ちた時の衝撃を堪えるためきつく目を閉じた。
…あっぶねぇな。
痛みの変わりに上からの安堵の声。背が高い分手足も長い火神には千夜の腕を掴むことができ階段から転落することはなかった。今度こそしっかり自分の足で立つ。千夜を助けるために投げ出した教科書たちを拾いまた、階段を降りる。ついてくるはずの千夜がいつの間にかおらず振り返ると階段上で膝に顔を埋めるようにしゃがみこんでいた。黒子と火神は彼女を見た瞬間何事だと駆け寄った。

「っごめん、先、行ってて」
「どうしました? 火神君に掴まれたのがそんなに嫌でした?」
「オイ!」

千夜はふるふると首を振り顔を上げる。心なしか赤く染まっている。

「なんかね、心臓がやばいの。聞こえるんじゃないかってくらいバクバクしてて…」

黒子は慌てて千夜に駆け寄り目線を合わせ肩を掴む。その行動に千夜だけにとどまらず火神までもが目を丸くした。黒子はそれは吊り橋効果だと、いつにもまして饒舌だ。恋に発展させるわけにはいかない。もし今ので千夜が火神に惚れたとあらばなんかムカつく。
千夜は小さく笑いながらそれはないよとはっきり否定をして安心する。ほっとして階段を下りはじめると、
火神君!
数段上にいた彼女がいつもより大きな声で名を呼んだ。えっと…あの、と何度か口ごもった後

「あ、ありがとう」

教科書で口元を隠してはいたが彼女らしくもないはっきりとした口調で言う。どこか吹っ切れた感があった。
そうこうしているうちに本鈴が鳴ってしまい三人仲良く授業に遅刻をした午前のこと。

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