ついったログ | ナノ
頑張って意中の子と出かける約束を取り付けた影山君。待ち合わせ30分前からそわそわそわそわ落ちつきなく待っています。時計を確認して彼女が来るまで、あと10分。あれ、あの子、何でもう来てるの? 向かいの道路、彼女が白い肌を桜色に染めてはにかみながらそこに立っていました。


手を振ってお待たせ! と駆けてきました。信号は青だから、横断歩道を渡って来たんです。そしたら、何が起きたんだろう。全てがスローモーションに見えて、なにが起きたの?止まるべき車が、止まらないで、横断歩道に侵入して、あれそうしたら彼女が、

ききーっ。がしゃーん。ぶち。ぐちゃ。


白い肌が綺麗だと拙い言葉で褒めたことがありました。そうしたら彼女は照れ臭そうに頬を染めました。その姿の美しいこと、可愛らしいこと!ますます好きになったんです。まだ始まったばかりだけどこの子と幸せになりたいと、幸せにしてあげたいと、幸せになろうと思ったんです。


綺麗だと褒めた白い肌が赤く染まってあれやだ嫌だいやだよなあこれから楽しいこといっぱいするんだから一緒に買い物行くんだから早く走れよ早くこっち来いよそんなところにいないでほら早くその赤いもの洗い落として終わるの待ってるからずっと待ってるからなあ、起きて、よ。
彼の言葉は、


それからの記憶は断片的で気付いたら人が集まっていて、気付いたら家にいて、気付いたら葬儀場だった。どうして皆、泣いているのだろう。だって彼女は俺と待ち合わせして俺が来るのを待っているのに。こんなところにいる暇なんかないのに。彼女が待ってる。あそこで待ってる。早く行かなくちゃ


待ち合わせ場所に走って向かい彼女を待った。来るまで、ずっとずっとずっと。いつまで待っても来ない。次の日も待つ。来ない。次の日も来ない。来ない。大丈夫。約束を破るような人じゃない。大丈夫。来ない。大丈夫。大丈夫。きっと来る。大丈夫。来ない。絶対来る。大丈夫。平気。嘘。来てよ


影山君は知りません。その道の端に供えられた花束に。見えていません。見たくないものは見えません。見てしまったら、だって、彼女がいないと認めなくてはならないですか。お願い。誰か、誰か、あの子は生きていると言って…?
でも、本当は知っているんです。彼女が死んだ、なんて。


学校帰りに待つ。来ない。部活帰りに待つ。来ない。休みの日は一日中待つ。来ない。来ない。彼女が来ない。電話をかけた。出ない。もう一度。出ない。もう一度もう一度。出ない。もう一度。出、た? 彼女に繋がった。やっと! けれど出たのは彼女ではなかった。聞き馴染みのない、女性の声


電話に出たのは彼女の母親です。影山君は彼女の家に招かれました。もしかして家にならいるかもと思ったんでしょうね。急いで向かいました。彼女の家は閑散としていて、やっぱり彼女はいませんでした。けれど彼女を見つけました。黒縁の枠に収まる彼女は相変わらずの可愛らしい笑顔でした


彼女の母が言いました。

「あなたは何も悪くない。あなたが責任を感じることはない。自分を咎める必要なんてないんだから」

いっそ泣いて、怒鳴って、全部お前のせいだと殴ってくれれば良かったのに。あまつさえ俺なんかの心配して。俺があの日誘わなければ。違うところで待ち合わせしていたら


ごめんね、ごめんね、本当に、ごめんなさい。わたしのせいで辛い思いをさせてしまったね。わたし、平気だから。少し痛かっただけなの、泣いてないよ。だから、どうか乗り越えて、振り向かないで、わたしのことなど忘れて幸せになってね、影山君
わたしの声など、聞こえてはいないのだろ う け  ど
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