あの子がほしい | ナノ

フェイタンにビールを奪われた打ち上げから数日後。わたしは読みたかった本がどこにあるのかを突き止めさっそく盗りに向かった。警備の厳しい国の大きな図書館に忍び込み、本を抱えて仮宿に戻るとフェイタンが仁王立ちで入り口に立っていた。じわり、背中と額に汗をかく。嫌な予感しかしない。
というか、何故フェイタンがここに…? ここはわたしが最近見つけた隠れるのにもってこいなお買い得物件。買ったわけじゃないけど。住人から奪って使っている小さくも立派な家。まさか尾けられていたとか? 心当たりはあるよ、そりゃあありますよ。どうりで絶のやたら上手い人が尾いて来てるとは思ったよ。フェイタンだったのか!

「お前が戻てくるの待てたよ」
「え」

マスクで口元は見えないがおそらく笑っている彼に、今更遅いと思うが抱えていた本たちを背中に隠してやり過ごす。何のことですか? なんて白々しくとぼけて見せると彼はいつの間にかわたしの背後に回り込み、手から本を奪い取った。

「丁度良かたね。全部読んでしまて暇だたよ」
「まってよ、それわたしが盗ってきたんだよ!?」
「知るか」

わたしの言葉なんて右から左に聞き流しているのだろう。奪った本を早く読みたくてうずうずしているのだろう。あーあ、盗られちゃったと落胆したふりをして彼が見えなくなったころ、服の下に隠していたもう一冊の本を確認する。よし、ある。
実はこうなる事は想定内。だからもう一冊盗ってきたのだ。フェイタンに盗られた方も読みたかったが、致し方あるまい。一冊だけでも死守した自分に万歳。さっそく読もうと本を取り出した瞬間、わたしの手からまたもや本が消えた。

「え、あ、え?」
「ワタシを騙せると思たか」

わたしよりも背が低いはずなのに見下されているように感じ、更に苛立ちが募る。口が見えなくとも目だけで今度は笑っているのだと分かった。盗ってきた本は二冊とも盗られるし、あの図書館は良い本があるが警備が厳しい。フェイタンに盗られたものは絶対に返ってこない。もう、なんで。
今日もわたしはフェイタンのジャイアニズムの被害に遭う。

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