非日常的日常 | ナノ

その日、万事屋には珍しく仕事が入り三人は家を空けることとなった。ハルが来てからは初めてで、ハルは初めてのお留守番、というものをしている。
ああ、それにしても暇だ。緑間に一通り教わった火事でもしようかとソファから立ち上がり家の中を見渡す。まずは掃除なんてどうだろう。とりあえず、掃除できそうなところを探し家の中を歩き回るも、緑間のまめな性格のためか、塵一つ落ちていない。では洗濯はどうだろう。洗濯機の前に立ち、ハルは致命的なミスを犯していることに気が付いた。

「…わたし、洗濯機の使い方わかんない」

ならばご飯でも作るか。張り切って台所に向かい包丁に手を伸ばしてから思い出した。緑間に刃物は危険だからもう少し大人になってからと言われていたのだった。彼との約束を破るわけにはいかない。もし嫌われてしまったらここから追い出されるかもしれないし、ようやく見つけた居場所を失うことになってしまう。そうなれば。…それだけは駄目だと首を振り、ハルは他に、自分にできることを探した。そしてようやく見つけたできること。お買い物。青峰が時々くれる、いわゆるお小遣いを手にし町へと繰り出した。
一時間後
案の定、迷子になっていた。見知らぬ人々はせわしなく行き交い一人迷子になって動揺するハルには見向きもしない。早足に歩き去る人混みの中、一人帰る道も分からず頼れる人もおらずじわりと目に水の膜が張る。それは後ほんの少しで溢れてしまいそうだ。

「…っう」

泣くまいとなんとかギリギリのところで堪えていると、ハルに影が覆いかぶさった。顔を上げると黒い服に身を包んだ空色の髪の男がハルを見て腰をかがめた。

「どうかしました?」

初めて声をかけてくれる、心配してくれる人間に遂に緊張の糸が切れ涙が溢れてきた。
黒子は突然泣き出した女の子に戸惑い、近くに保護者らしき影も見えなかった。子供が迷子になったのならきっと警察に来るだろうと思い仕方なく手を引いて屯所に連れていくことにした。

黒子、女の子を保護する。

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