頼りの空たちがいなくなり残った島民たちは蝶左と美鷺の扱いに困り果てていた。置いていくのも連れていくのも危険。拘束された男と丸腰の女だ、武器を取れば殺すことも可能だろう。思い立てば行動は早かった。竹やりや人の顔ほどの大きさの石を手に取り構えだした。 「おい美鷺、何とかするワケ」 自身では縄を解くこともできず、嘘をついて島民を散らせる方法もあるが面倒と彼女に任せる蝶左。美鷺は蝶左に頼られたことが嬉しく、ざっと立ち上がり間に割って入った。 「そんなことしてないで、さっさと逃げたほうが賢明」 「!?」 「あなた方を殺すのなんて簡単にできる」 それに、わたし丸腰じゃないし。言い終わるや否や皆、武器を捨てて逃げ出した。情けない…と内心溜息をつき蝶左の縄を解こうと手をかけるが固くてほどけない。美鷺の残念なところはここだ。小刀を使って切ればいいのに必死に手で解こうとしている。蝶左が至近距離にいる故に緊張して気が動転しているのだ。 突如、がさがさ揺れる茂み。 「あれ?蝶左に美鷺じゃん。なにやってんの?」 砦を見張っているはずの烏頭目がそこにいた。お前が何やってんだと突っ込みたくなる。 「なにって……」 「見ての通り解けないの」 「え、なに捕まったの!? ダッサ!」 肩を竦める美鷺に烏頭目は吹き出し大笑い。そんな烏頭目に腹が立ったのか美鷺は口を尖らせ「わたしは違いますー」と子供ような一面を見せた。蝶左は不快に思い言い返せば喧嘩に発展。どうどう、となだめようか迷ったが二人が勝手に力尽き喧嘩は終了。事の顛末を話すと烏頭目は「ヒャッホーは寝て待てってか」と意味不明なことを抜かし蝶左の訂正が入る。 「果報は寝て待てだろ。ねェ、なんでお前ってバカなのに、難しい言葉使いたがんの?」 「むしろ、烏頭目の言いたいことがわかる蝶左さんに驚きですよ、わたしは」 蝶左の縄を烏頭目に切ってもらい万田が死んだことを告げた。仕方ないか、と片されたが。友達というわけでもないし。 万田が死んだことも悲しかったけど、それよりも、いつか、利害の一致だけでなく本当に仲間として信頼したい。足手まといは捨てるなんて悲しすぎると美鷺は着物の合わせ目をきつく握りしめた。 |