我らの主将は恋をしたらしい 《柳side》

「桐生さん…。」

最近の精市は機嫌の落差が激しい。あるときは何かよからぬことが起こるのかと思うほどご機嫌だったり、またあるときは震え上がるほど機嫌が悪かったり…。まぁ、大体その餌食になるのは弦一郎なのだが…。( 憐れなり…。)他にもあげるとキリがない。こちらからすると恋の病など迷惑な話ではあるが、精市にも春が来たかと思うと嬉しくもある。

そういえば、影で何か協力しようという動きがある。大方、精市の機嫌を良くしようという確率が高いが…。本当ならば精市一人だけでも充分そうなのだがなかなかそうもいかない。実は、あの神の子こと幸村精市は好きな子を目の前にすると物凄く内気で、恥ずかしがり屋になってしまう。(これは流石に俺も驚いた。)普通ならば、態度の違いで気付くかもしれないが、相手である桐生莉奈は天然なのだ。そういう類の話には少々疎いらしい。なので精市からアタックしようにもできないのである。

「よし、今日こそは電話番号を聞く!蓮二、どうしたらいいと思うかい?やっぱり自分ではっきり聞いた方が良いかな?」

「それはそうだろう。それに、俺を介して聞いてもお前はいい気をしないと思うが。」

「それもそうだね…。よし!今から聞いてくるよ!ありがとう、蓮二。」

そう言うと、少し緊張しながら去って行った。精市のデータに加えようと思い、後をつける事にした。

精市の後を追ってみると、影に何やら見覚えのあるものたちがいた。

「仁王、丸井、赤也、ジャッカル。柳生に弦一郎まで…。」

「あ、柳先輩!」

「仁王が面白いことが起こるからついて来いって言われたんだよ。」

「プリっ。」

「私は仁王君に騙されて…。」

「俺も右に同じだ…。」

「胃が…、痛い…。」

こんな感想を言っている皆に少々呆れつつも、自分も同じなので何も言えなかった。

そういえば、肝心な精市は大丈夫なのだろうか…。

「あ、あのっ、桐生さん!」

「なあに?幸村君。」

桐生はニコニコと微笑みながら、精市に答えていた。

「あ、あの…、その…、で、で…、でん…、でん…。」

「でんでん…?ああ、カタツムリの!」

いや、違うだろう。桐生の回答があまりに飛んでいたため、思わずツッコミを入れてしまった。

「え?カタツムリ?」

精市も困っているようだ。

「ほら、でーんでんむーしむっしかーたつむっりー♪っていう歌があるじゃない?だから、カタツムリかと思ったんだけど。」

「あ、いや、そうじゃなくって、電話番号を…。」

桐生の珍回答のおかげか、本題をきちんと言えていた。

「え?そうなの?ごめんね。電話番号だよね。交換しょっか?」

桐生は笑いながら言っている。

「う、うんっ!」

精市も周りに花が咲き乱れているのかと思うほど満面の笑みを浮かべていた。



その日の部活中の精市はとても機嫌が良かった。電話番号に加えて歌を聞けたのが嬉しかったらしい。また、早く帰って桐生電話をしたかったらしく、練習も予定より早く終わった。正直、こんな事でいいのか?と、心配になってくるが、これもこれで平和でありだろう。そう思った。


願わくば明日も今日のような日が来ますように…。そう、切に願った。


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