第2話 理想と現実

 丁と莉奈が洗濯を終え、村へ戻ってくると一人の男が走ってきた。

「莉奈!」

「何でしょうか長。」

 走ってきたのはこの村の長だった。

「どこに行っていたんだ。もう祈りの時間だぞ!」

「そうでしたか?すみません。」

「早く社へ戻れ。いいな!」

「…、はい。」

「それと、丁!お前、仕事は終わったのか?」

「これを干したら終わりです。」

 丁は長に籠を見せた。

「ならいい。それと、あまり莉奈には近づくな。大事な巫女がお前のせいで穢れてしまったらどうしようもないからな。」

 長のこの言葉で莉奈は怒った。

「…長、丁君は何も悪くありません。私が勝手に近づいたのです。咎めるなら私を咎めてください。」

「…、お前がそこまで言うのならば仕方がない。丁!お前にはまだ仕事があるからな!山に芝刈りに行って来い!」

 莉奈の言葉で長は引き下がったが、丁に仕事を言いつけどこかへ去って行った。

「…、莉奈さん?お祈りをしなくてもいいのですか?」

「いいんです!私にそんな力はないし、大体、ちょっと祈ったくらいで天気を変えられる訳ないですよ。」

「確かに。それには同感です。」

「そうでしょう?私の母様が巫女の力があるからって私にはそんなもの、持っていないのに…。」

 莉奈の母親は幼いころから予知能力を持っていた。莉奈の母親が流行病で亡くなってから村の人間は娘である莉奈が力を持つものと思い、村の巫女にしたのである。

「…、そろそろ行かないとまた長に怒られますよ。」

「あ、本当ですね。それじゃあ丁君、また明日。」

「…、明日は追いかけっこはしませんからね。」

「あはは。それじゃあ明日もやりましょうね。」

「しませんからね。」

「あははは。また明日〜!丁く〜ん!」

「また明日。莉奈さん。」

 二人は別れの言葉を返すと背を向けてそれぞれの場所へ帰って行った。


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