第7話 今、約束が果たされる
___________莉奈の死から千年と数百年がたった。___________
「鬼灯様、最近現世のとある村では怪奇現象が起こっているそうなんです。」
「怪奇現象?」
部下らしい鬼からそう呼ばれた鬼は昔、丁と呼ばれていた人だった。かつての面影はなく、立派な青年に成長していた。
「そうなんです。噂だと巫女に服を着た若い女の幽霊が社のような場所で『ちょう…。』とうわ言のように言っているそうなんです。」
「…、その村の地図はありますか?」
「はい、こちらです。」
鬼灯は部下に地図を見せてもらうとその村はかつて丁と呼ばれていた時代に住んでいた、そして、莉奈と生きていた村だったのだ。
「…、現世へ視察に行ってきます。」
「え?」
「閻魔大王がサボっていないか見張っていてください!いいですね!」
「は、はい!」
千年以上昔の村はかつての面影はなく、森と化していた。
鬼灯は昔の記憶を頼りに村へと向かった。
「ここ、は…。」
鬼灯が見つけたのは社とは呼べないほど古ぼけた建物だった。
しかし、その場所は鬼灯の記憶が確かだと莉奈がいつも祈りを捧げていた社だった。
鬼灯はゆっくりと社へ向かった。そして、上へとつながる階段を一段一段踏みしめながら登った。
「誰?」
社の扉を開けると一人の若い巫女姿の女がいた。
鬼灯はその若い女が誰なのかわかっていた。長い間待ち焦がれていた、もう転生したものだと諦めかけていた…、
「迎えに、来ましたよ。莉奈さん。」
そう、その女は美しく育った莉奈だったのだ。
「丁、くん?丁君ですか?」
「はい。莉奈さん。遅くなってしまいすみません。」
「丁、くん。丁君!」
二人は千年以上の歳月を取り戻そうときつく抱き合った。
「ずっと、ずっと…、待っていたんですよ。」
「はい。」
「約束、守らなきゃって…。でも、寂しくて…、ずっと、ずっと…。」
「もっと早く迎えに来ればよかった。貴方を迎えるためには準備をしなければならないと思い、地獄の閻魔大王の補佐官の地位につきました。ですが、それまでが長すぎました。もう、あなたが転生しているものだとばかり思っていました。」
「…、でもこうやって丁君は迎えに来てくれました。それだけで十分です。」
莉奈は小さな雫を目から落とした。
「莉奈さん…。」
鬼灯は優しい手つきでその雫を拭った。
「莉奈さん。大事なお話があります。」
「?はい。」
「あなたはもう、とうの昔に死んでしまっている。しかし、地縛霊としてこの世にとどまっています。ですが、死んだ者はこの世にとどまっておくことは本来許されないのです。」
「え…?」
「ですから、私とともに地獄へ行きませんか?」
「地獄に…?」
「はい。そして、ある程度落ち着いたら私と結婚してくれませんか?」
「え…?」
「もちろん、その返事は好きになさってかまいません。嫌ならばそう、言ってください。元々、私はあなたに結婚など申し込んではいけない身。断っても何もおかしくはありません。」
「私、いいのですか…?こんな私でも、お嫁にしてくれるのですか?」
「あなただから…、あなたしかこんな事言える相手はいませんよ。」
「丁、くん…。ありがとう。不束者ですがよろしくお願いいたします。」
莉奈は三つ指を立てて鬼灯に頭を下げた。
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします。」
二人は永遠の幸せを誓い合った。
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