第5話 訪れた朝
「丁、もう良いな。」
「はい。」
「それでは、役目を果たせ。」
「はい。」
「何か、残すことはないか?」
丁は莉奈との今までの日々を思い出した。
だが、それと同時に村人たちへの怒りと憎しみが沸き上がった。
今までみなしごとして様々な苦労もあったが、莉奈との日々はその記憶さえも眩むほど目映い日々だった。だからこそ、より一層どうしようもない感情が丁の中にこみ上げていた。
「…、あなたたちに死後、何らかの制裁を下す。」
村人たちはその言葉に凍り付いた。
「それでは、ご機嫌よう。」
そう残すと丁は暗い祠の中へと入って行った。
祠の中で、莉奈のことだけを考えていた。
川で洗濯物を取り合って追いかけっこをしたこと。村の子供たちに悪口を言われ、莉奈が助けてくれたこと。二人で長に悪戯を仕掛けて怒られたこと。そして、
あの夕焼けの中の約束のこと。
「莉奈さん…、必ず、迎えに…、行きますから…。」
そう残すと丁は地面に横たわりそのまま起きてはこなかった。
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