第4話 セピア色の約束

『雨が降らぬ…!莉奈はもう使えない。いけにえをだそう!』

『うちはいやだぞ』

『うちも嫌だ』

『丁は?』

『そうだ。丁のやつがいる』

『あいつにしよう!』



 丁がいけにえにだされると二人が知ったのは仕事を終え、遊ぼうと長の家に戻った時だった。


「嘘、でしょう?丁くんが?」

「というわけだ。明日から祠で雨乞いをしてもらう。」

「明日…。」

「待ってください!」

 莉奈が長に向かって声を上げた。

「どうして丁くんなんです?巫女の私がいます!私にしてください!」

「お前はもう使えない。肝心な時に使えんなど巫女の資格はない。」

「え…。」

「よいな。丁。」

「…、はい。」

「丁くん!」

「では夜明けとともに祠へ向かう。それまでに悔いの無いようにしろ。よいな。」

「はい…。」

 それだけ伝えると長は家へ戻って行った。

「どうしてですか!どうして引き受けるのですか!」

「仕方ないのです。これで村の者たちの恨みが晴れるのなら。」

「でも!」

「それに、あなたに危害が与えられることは少なくなるはずです。」

「え…?」

「もう、気付いていますよ。その手の痣。」

 莉奈は顔を真っ青にして右手を抑えた。

「もう、いいんです。我慢しなくても。」

 丁が優しい手で莉奈の右手を撫でた。

 服の裾でよく見えてはいなかったが莉奈の腕には叩かれた青い痣がくっきりとあった。

「嫌だ…。嫌です。」

「え?」

 莉奈は小さな声で反論した。

「私なんかのために自分の命を粗末にしないでください!いくら拒否権はないとしても反論することだってできたでしょう!」

「…、私は自分なんかよりあなたが大切なんです。あなたが傷つく姿はもう、見たくないんです。」

「…、ごめん。ごめんなさい…。ごめんなさい、丁くん…。」

 莉奈は静かに泣いていた。

「謝らないでください。私が決めたことです。悔いはありません。」

「丁くん…。」

「莉奈さん。私はもうこの世であなたを守ることは出来ません。だから死後、必ずあなたを迎えに行きます。」

「え?」

「ですから、その時まで待っていてくれませんか?」

「…きっと、ですよ?絶対、ですからね?」

「必ず、会いに行きます。」

 二人を夕焼けが明るいセピア色に染めていた。


[ 4/7 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -