第2話 澄んだ声に、
「え?この本を返しに行くんですか?」
先生に昼休みに本を返しに行ってくれないかと頼まれた。
本当は、昼休みにあの子を探しに行くつもりだったんだけど…。頼まれたなら、仕方ないだろう。
「分かりました。いってきます。」
「すまないな。」
1階から2階への 階段を登り、左に曲がったら目の前が図書室だ。
ガラガラガラ…。
「すみません、本を返しに来たんですけど…。」
「はーい。」
気だるそうな声の主を見ておもわず本を落としそうになった。
「返却ですね。」
声の主はあの子だったからだ。
「はい、お願いします。」
「少し待っててください。」
手続きをするために少し席を立った。
彼女は名札を首から下げていた。
桐生莉奈ちゃん、か。2年生みたいだな。
すれ違って2日後、ようやく名前と学年を知る事が出来た。
「はい、返却終わりました。本を所定の位置に戻してください。」
「…ねえ。」
おもわず話しかけていた。
「何でしょうか?」
「お、オススメの本ってあるかな?」
自分でも話しかけたことにびっくりしていたため、少しどもってしまった。
「オススメ、ですか?うーん、そうですね…。この本はどうですか?」
莉奈ちゃんは席を立ち、窓側のグラウンドが見える本棚の前に立った。
「この本、ミュージカルを書籍化したものなんです。少し、悲しい部分があったりしますけど、読み応えはありますよ。」
彼女は笑顔で教えてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、この本、借りようかな…。」
「ありがとうございます。それでは、本を戻したら持って来てください。手続きをしますので。」
「うん、わかったよ。」
少し足取りが軽くなりながら本を所定の位置に戻した。
話に答えてくれた。笑いかけてくれた。たったそれだけでこんなに嬉しくなるなんて…。女々しいかな?
「それでは、1週間後までに返却してください。」
「うん。…莉奈ちゃん。」
「へ?は、はい、何でしょうか?」
「ありがとう。」
話に答えてくれたこと、オススメの本を教えてくれたこと、そして、また会えたこと。
全てを含めて僕は笑顔でお礼を言った。
「い、いえ。仕事ですので…。こちらこそ、ありがとうございました。」
「フフっまた、来るね。」
「お、お待ちしています。」
ガラガラガラ…。
莉奈ちゃんと話せたことに心の中でガッツポーズをしながら教室へ戻って行った。
右手には教えてもらった本を持って…。
千石では無いけれどラッキーだったな。
頼まれごとも悪くないと笑っていた。
[mokuji]
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